ブックタイトル社会科NAVI Vol.21
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社会科NAVI Vol.21
最高裁判所は,もちろん,いつも判例の変更をしないで,憲法解釈の結論を変更するという手法によっている訳ではない。例えば尊属殺人罪については,合憲とした昭和25年の先例が,昭和48年に明示的に覆されて違憲とされた。公務員の政治的行為の処罰についても,昭和48年の判決(全農林警職法事件)は,無限定に合憲だとして,昭和44年の先例(全司法仙台事件)を明示的に覆している。先例は、処罰の範囲を、法令をそのまま読んだよりは限定的に解釈すれば合憲だという合憲限定解釈の手法によっていた。 それらの先例と比較すると,判例の変更をしないような手法は,憲法訴訟が活性化する中で,時代の要請に対応しながら,法的な安定性を確保するという側面がありつつも,やや,自己(ないしは立法府)に誤りがないように取り繕っていると見えなくもない。「国民の意識」のような曖昧なものをどのように立証するのかについては,国籍法判決で,多数意見とは異なる結論を主張した裁判官が述べた反対意見も厳しく批判している。また,ここでみたように,最高裁が大法廷で合憲としたものを自ら違憲とするときは,違憲判決がそもそも大法廷でしかできないため問題が露わにならない。しかし,判例を変更する必要がないということは,その限りで大法廷による必要がない訳で,小法廷がこの論理で,大法廷が合憲限定解釈を行っ▲ 女性の再婚禁止期間●松本 哲治主要著書/『憲法Ⅰ 総論・統治〔第2 版〕』『憲法Ⅱ 人権〔第2版〕』(いずれも共著,有斐閣,2018 年),「経済的自由」宍戸常寿他編『総点検日本国憲法の70年』(岩波書店,2018 年),「一部違憲判決と救済」土井真一編著『憲法適合的解釈の比較研究』(有斐閣,2018 年)これから憲法が「変わる」とすればれまでの規定では,日本国民でない者を母として生まれた婚外子で,日本国民である父によって認知された者が,届出によって日本国籍を取得するには,父と母が法律上の婚姻をすることが必要であった。この規定について,最高裁は,立法当初(昭和59年)は合憲だったとしながら,平成20年の大法廷判決では違憲としたのである。「家族生活や親子関係の実態も変化し多様化し」,「国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより」「その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできな」くなってきているというのである。た判決があるような事件について,無限定的な合憲判決をすることになれば問題であろう(全農林警職法事件は大法廷判決であったが)。 これらのことから考えると,次に判例の変更をせずに,憲法の解釈の結論の変更が行われるのは,どのような事柄であろうか。平成27年,最高裁は,同日付の2判決で,女子のみの6か月の再婚禁止期間を定める民法の規定について100日を超える部分を違憲とするとともに,いわゆる「夫婦同姓」を強制する民法の規定について合憲とした。夫婦同姓についての後者の判決が,夫婦同姓を強制することによるアイデンティティの喪失感,個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することの困難,これらの不利益を妻となる女性が受ける場合が多いこと,そのためあえて婚姻をしないという選択をする者が存在することにまで言及しつつ,合憲としたことには学説による批判は強い。「婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべきものである」とする最高裁が,次に判例を変更せずに憲法解釈の結論を変更するとしたら,この事例ではないかと思うが,どうであろうか。子の出生時期前夫の子と推定現夫の子と推定前夫の子と推定 現夫の子と推定再婚禁止約80日300日200日違憲(短縮)100日再婚禁止6か月(約180日) 200日離婚再婚旧規定の再婚禁止期間大法廷判決社会科NAVI 2019 v ol.21 17