ブックタイトル社会科NAVI Vol.22 2020年度版『小学社会』教科書特集号

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社会科NAVI Vol.22 2020年度版『小学社会』教科書特集号

『小学社会』の監修者を引き受けていただいたわけをお聞かせください。     特に今回は,6年歴史単元の監修をしました。私が関わろうと思ったのは,子どもが歴史にわくわくする教科書をつくりたいと思ったからです。  日本文教出版の教科書がこれまで大切にしてきた問題解決的な学習は,私もとても大事にしたいものです。歴史学習の第一歩は,子どもがまず自分の疑問をもつことです。教科書の各見開きにある,「なぜ」「どうして」という子どもの素朴な問いです。歴史はどうしても暗記ものになってしまいがちです。そうしないためには,子どもたちが,自分たちの問題として考えることです。 素朴な問いを追究していくには,調べるという活動が必要です。それには,体験学習も大事です。例えば,黒曜石を手に入れるためにはどうしたらいいか考えようとか,それで石器をつくってみようという学習をしてほしい。私は,子どものころに黒曜石が見たくて,親に頼んで島根県の隠岐の島に連れて行ってもらいました。磯田先生が歴史に興味をもったきっかけを教えてください。  子どものころから,歴史少年,考古学少年でした。私が生まれたのは,古代の吉備王国が栄えた「安土城あとから出土したかわら」の写真を見てください。これは,瓦に金箔がはられているんです。織田信長は,誰も見たことがないきらびやかな城を建てました。信長の独創性はこれを見ただけでもわかります。我々が採用した図版には必ず裏話があります。インターネットなどを使ってぜひ調べてみてください。 もう一つ大きな見どころとしては,時代ごとに,当時の人々のくらしに注目した導入にしたところです。なぜ,くらしに着目したかというと,「歴史は靴」ということなんです。人間は靴を履いていないと安全に歩けないでしょう。歴史がわかっていると,例えば過去の災害の歴史がわかるし,将来,仕事を失わずに生きていくには,どういう商売をしたらいいのかがわかる。歴史を知らずに世の中を歩くのは,裸足で歩くようなものです。子どもたちに履いてほしい安全な靴をつくるのが,わたしたちの仕事です。 数字を重視することも心がけました。例えば,18世紀の江戸の人口と同じ時代のロンドンやパリの人口を比べています(6年P.151)。数字にすると比べることができる。その際,「正しく比べる」という発想も教えてほしいのです。現代は,自分の国で起きていることを世界と比べる時代になっています。 比べるということでいえば,教科書の前後のページを比較しながら教えてほしいですね。当時の建築物について,古代の古墳から法隆寺の見上げる高い塔に変わっていく。実はこの技術で中世の城がつくられているんです。また,土器と瓦を焼く技術は違う。瓦は水をはじかなければならないので,窯を使って高温で焼かなければならない。そんな理化学的な視点でも教えてほしいと思います。日本を担う未来の技術者を育てるという意味でも,そういう視点は大事です。社会科を専門としていない先生でも,それぞれの視点で歴史にアプローチすればよいということですか。 小学校の先生は,その専門に関わらず担任をされていますね。理科の先生なら理科的な視点で歴史を教えればいいのです。美術の先生なら,装飾古墳にうずまき模様がたくさん出てくることの意味とか,縄文人と弥生人がつくった土器のデザイ岡山県です。通っていた小学校は,古墳を削ってつくられていました。私の家は,弥生時代の遺跡の上にあって,庭から本物の弥生土器が出てきました。その手触りにわくわくしました。土器を見つけたとき,きっとここの土でつくられたわけだから,実際につくってみようとしたんです。当時と同じ高い温度で焼いて再現しました。 遺跡にもよく足を運びました。自分の目で見ることは,とても大事ですから。日常生活でいえば,食事のことも歴史を学ぶきっかけになりますね。自分たちの祖先は何を食べていたのか,三食食べるようになったのはいつからか,とかね。 すべてのものに歴史があります。その子どもが関心のあるものから先生が語ればいい。相撲が好きな子,ファッションに興味のある子,お菓子が好きな子どもに,その歴史を先生が調べて,子どもの興味・関心に答えてあげてほしい。「平清盛の時代にはどんなお菓子を食べていたのかな。」とか。「後の時代には,砂糖を輸入して,今のお菓子に近いものが出てくる。」など,教科書をヒントに子ども一人一人と向き合ってほしいです。監修していただいた『小学社会』の見どころを教えてください。 大きくは二つあります。一つ目は,教科書に掲載している図版は,子どもが疑問をもてるものに改善されました。例えば,6年のP.126にあるンの違いとか,宇治の平等院鳳凰堂は,左右対称であるとか,子どもにどんどん話せばいい。形に着目してもいい。前方後円墳の形とかね。時代ごとに順番に教えるのではなく,「今日は,教科書のなかから特徴ある形を比較してみよう。」という使い方をしてもらいたい。先生が得意な分野でテーマをつくればいいのです。そういうときは,教科書は図録として使えます。最後に,この教科書でどのような子どもを育てたいですか。 この教科書を使う子どもたちが生きる社会は,そのしくみが今までとは大きく変わり,まったく新しい時代です。子どもたちは,人類史上の大変化の入口に立っています。人類はこれまで狩猟・採集時代の大変化,農業から工業化がはじまるときの大変化を経験してきました。現代社会は,農耕や工業の開始と並んで,100年に一度しか生じない大変化のときです。大きなところでは,人工知能,ネットワーク化したコンピューターの発達がありますね。これまでにない発想で物をつくらないと意味のない時代です。みんなで同じものを覚えるという時代は終わりました。基礎教養をふまえつつも,自分で課題をつくって,誰ももっていない発想で行動すること。それが求められる時代です。この教科書で,先生も子どももたくさん疑問をもって,楽しみながら学習してほしいと思います。教科書を,世界へ広がる扉や窓のようなものと考えてほしいですね。磯田道史(いそだ みちふみ)歴史学者。国際日本文化研究センター准教授。茨城大学,静岡文化芸術大学などを経て,2016 年から現職。著書に『武士の家計簿』(新潮新書,第2回新潮ドキュメント賞)や『天災から日本史を読みなおす』(中公新書,第63回日本エッセイスト・クラブ賞)など多数。NHK 大河ドラマの時代考証ほか,テレビや新聞などで,歴史をおもしろく,分かりやすく読み解く手法は大人気。2020 年度版から,文部科学省検定教科書『小学社会』(日本文教出版)の監修者。歴史学者―「歴史は靴」。私は子どもたちに  安全な靴をつくりたい―磯田道史先生に聞く『小学社会』の見どころ4 社会科NAVI 2019 v ol.22 社会科NAVI 2019 v ol.22 5