ブックタイトル社会科NAVI Vol.23
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社会科NAVI Vol.23
本イナガはなぜ共に歌うのかナガの新たな自画像作は南インド出身のミーナークシとシュリクマールが共同監督として手掛ける「ウラミリ(我が民族の歌)プロジェクト」の一作品であり,6 年の現地撮影を経て,ナガの日常に息づく歌の文化を, 歌と労働をテーマに描いた秀逸なドキュメンタリー映画である。舞台は,ナガランド州南部の標高約1,500mに位置するペク。チョクリ語を母語とするチャケサン・ナガが5,000 人程暮らす集落である。周辺の丘陵には棚田が広がり,主に農業を生業とする彼らは「ムレ」と呼ばれる小集団を作り,田起こしから収穫までを機械を使わず協働して行う。農作業に歌は不可欠で,作品の中でも鎌を入れた籠を背負い,ムレの仲間達と賑やかに歌いながら棚田に出掛ける様子や,青年達がリズミカルに「ホーヘイ,ホーヘイ」と掛け合いながら手際よく代掻きをする場面が印象的である。世界的に見ても,こうした労働歌が本来の脈絡の中で生きている事例は稀有である。彼らにとって歌を通した仲間との対話は,作業効率の向上や単純作業の疲労を癒す行為であると同時に,歌が相互扶助や共同体を維持する重要な媒介となっている。 チャケサン・ナガの民謡は「リ」ンドという大国に組み込まれたナガは,9 割以上がバプテストを最多とするキリスト教徒である。地理的・民族的・宗教的にもマイノリティである彼らにとって,インド人であることへのディレンマは依然として根深い。 近年は州政府を中心に,地域振興を目的としたナガの伝統的風習や芸能の観光資源化が進んでいる。若者の自文化への関心や再評価も高まりつつあり,長年の紛争地域というイメージを払拭し,豊かな文化を持つ新たなナガの自画像が彼ら自身の手によって描き始められている。と呼ばれ,複数の声部が重なり合って旋律とハーモニーを生む多声的合唱が特徴である。本作の原題‘Kho KiPa Lu’ はチョクリ語で「上へ,下へ,斜めへ」を意味し,歌の旋律や和声の豊かな動きがそこに表現されている。「リ」の歌詞は上句4音節、下句5音節の定型詩で,即興的に綴られる場合もあれば,世代を超えて口頭伝承されてきた民謡も多く存在する。様々な隠喩を用いた恋愛歌や英雄を讃える叙事歌など,無文字社会であった彼らにとって,民謡は彼ら自身の村の歴史や伝説を後世に伝える役割も担っているのである。●岡田 恵美 (おかだ えみ)専門分野:民族音楽学,南アジア研究『インド鍵盤楽器考』(渓水社,2016 年),『南アジア文化事典』(分担執筆,丸善出版,2018 年)国立民族学博物館(みんぱく)では,12月22日(日)のみんぱく映画会「みんぱくワールドシネマ」で,「あまねき旋律」を上映します(要展示観覧券,一般580円)。詳しくはみんぱくのホームページhttp://www.minpaku.ac.jp/museum/event/fs/をご覧ください。専門分野主要著書ほか社会科NAVI 2019 v ol.23 15