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概要

社会科NAVI Vol.23

現代社会ウォッチングvol.9●同志社大学教授 松本 哲治 季節はすでに秋ですが,この夏,「表現の自由」「検閲」ということが話題になりました。ここでは,その件には深入りしませんが,関連する概念について,すこし頭の中を整理しておきましょう。 表現の自由は,とりわけ民主政治にとって重要な意義をもつことから,特別に重要な権利であるとされていますが,そのような表現の自由についての考え方の一つに,事前抑制の原?則?的?禁止があります。なにが表現してよいものであるか,公権力があらかじめその表現を見た上で決めるのは,典型的な事前抑制です。 薬局の開設は許可制にできても,新聞や書籍の発行を許可制にはできません(放送局はちょっと別です)。許可制とは,一般的に禁止したうえでそれを解除するものであるからです。これに対して,法律でわいせつ表現や名誉毀損を禁止し,ある表現がされた後にそれにあたるとして処罰することは,事前抑制とはなりません。 このような考え方の背後には,一つには,「思想の自由市場」という理念があります。これは,ある表現の価値,意義は,「思想の自由市場」に登場させた上で,その表現自身に競わせることによって明らかになり,これによって真理に到達できるという考え方です。また,もう一つ,事前抑制には手続上の問題や実際の抑止効果が事後規制の場合に比べて大きいということも,事前抑制を問題視すべき理由となっています。 「検閲」は,事前抑制の最も極端なもので,憲法21条2項によって絶?対?的?に禁止されるとされています。判例(税関検査事件・最高裁判所大法廷▲ 「検閲」を受けた小説(小林多喜二『転形期の人々』國際書院,1933 年)▲ 事前抑制の禁止と閲覧事前抑制の原則的禁止「検閲の絶対的禁止」と忖度検閲,忖度,忘れられる権利昭和59年12月12日判決)によれば,検閲とは,「行政権が主体となつて,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止すること」です。この定義には批判もありますが,さしあたり,発表できている限りは検閲ではないことになります。原則的禁止21条1項絶対的禁止21条2項事前抑制検 閲18 社会科NAVI 2019 v ol.23