ブックタイトル社会科NAVI Vol.23
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社会科NAVI Vol.23
事前抑制の原則的禁止には,原則的とある以上,例外があります。たとえば,名誉毀損は人格権を侵害するもので,その甚だしいものについては,裁判所が事前に差し止めることができる場合があります。公職の候補予定者に対する事案で,「表現内容が真実でなく,又はそれが専ら公益を図る目的のものではないことが明?白?であつて,かつ,被害者が重?大?に?し?て?著?し?く?回?復?困?難?な損害を被る虞があるとき」(傍点筆者。以下同じ)には,事前差止めが許されるとした判例があります(北方ジャーナル事件・最高裁判所大法廷昭和61年6月11日判決)。裁判所によるものとはいえ,「市場」への登場自体を阻むものですから,刑罰や損害賠償に比べて,傍点部分などのように要件が絞り込まれていることがうかがえます。 最近注目される忘れられる権利の問題には,単に処罰や損害賠償を課すだけではなく,事後的にせよ,「市場」からの排除をもたらすという点で,事前抑制を例外的に許容して差止めを認める場合と共通の要素があります。この問題は,さしあたり,我が国では,前科のある者について,氏名等でネット検索をすると,前科の記述が検索結果として表示されることの削除を,検索事業者に求めるという形で現れてきています。これは,検●松本 哲治主要著書/『憲法Ⅰ 総論・統治〔第2 版〕』『憲法Ⅱ 人権〔第2版〕』(いずれも共著,有斐閣,2018 年),「経済的自由」宍戸常寿他編『総点検日本国憲法の70年』(岩波書店,2018 年),「一部違憲判決と救済」土井真一編著『憲法適合的解釈の比較研究』(有斐閣,2018 年)閲でも典型的な事前抑制でもなく,また,問題の記述自体は検索事業者が公表しているものでもありません。また,削除という形での対処も,従来の出版や放送についてはなかなか考えにくいものでした。判例(Google検索結果削除請求事件・最高裁判所平成29年1月31日決定)は,事実(児童買春の前科)を公表されない法的利益と検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものとし,「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明?ら?か?な場合には」,検索結果の削除を求めることができるとして,要件を絞り込んでいます(この決定では検索結果の削除申立を却下)。 これは,「現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」(同判決)検索結果の提供という検索事業者自身の表現行為を,検索結果を削除させるという形で制約することを踏まえたものと受けとめることができるでしょう。 表現の自由の重要性は,人間が政治共同体を構成して生きていく以上不変,普遍のものですが,技術的環境の変化によって,その現れ方が変化していくことには柔軟に対応していく必要があります。事前抑制の例外的許容と忘れられる権利 その意味では実は,戦前の我が国にですら,映画を除いて典型的な検閲はなかったのです。出版法や新聞紙法による検閲があったではないのか?いえ,それらは,「出版直前ないし発行時に提出させた上,その発売,頒布を禁止する権限が内務大臣に与えられる」(同判決)というものでした。発行は辛うじてできた建前だったのです。しかし,発行直後に発売禁止をくらっては出版社としてはたまりません。当然ながら,事前にお上のご意向をうかがい,あるいは推し量ることになり,戦後に最高裁曰く,両法の「運用を通じて実質的な検閲が行われた」(同)ということになります。権力には忖度がつきものですね。▲ 削除の対象となる検索結果のイメージGugule ○○ ○○○○ ○○ ××××××××□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□○○ ○○ ××××××××□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□インターネット上にある実名でのページの内容の抜粋 前科の記述タイトル氏名等を入力して検索社会科NAVI 2019 v ol.23 19