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概要

社会科NAVI Vol.23

リレーエッセイ 子供の頃から旅が好きで,時刻表を愛読していた。「今は山中 今は浜 今は鉄橋渡るぞと」の歌詞通り,車窓から見る日本列島は変化に富んで飽きない。お気に入りの車窓風景も多く,中でも東海道本線で廃線となった海の見えるトンネルといわれた赤沢隧道は印象深い。航空機利用では,車窓とは異なる鳥瞰的な風景も魅力的だ。富士山の秀麗な姿,トーマス・クックも絶賛した瀬戸内海の多島美,沖縄の珊瑚礁の海など絶景は多い。 それらの美しさに感嘆するだけでも旅の大きな楽しみであるが,見るべき視点を持つと,これまでは気付かなかったことに気づいて,楽しみが増し,時には考えさせられることにもなる。 北アルプス上空を飛ぶと,雄大な山岳風景が広がるが,よく見ると半椀状の地形や非対称山稜を見てとれる。氷河やその周囲に特徴的な地形である。日本にも氷河があって,それがこのような地形を作り出したと考えると時の流れと自然の力を感じる。兵庫県上空では,丘陵地帯にくっきりと線のようなものを感じる。山崎断層帯である。そのような断層や褶曲は各地で見られ,日本列島の地下で働く巨大な力を感じることができる。 那覇空港に北側から離着陸する時に経験する異常な低空飛行には米軍基地の存在とその力を思い知らされる。広島空港近くでは極東最大規模と言われる米軍川上弾薬庫が手に取るように見えるが,人々の生活の場との距離の近さに驚かされる。 私たちは社会の中で生き,常に社会を見ている。しかし,見ているつもりでも見えていないものがあり,往々にしてそれがその社会の特徴や本質,問題に深く関わる。地形のようにはっきり形に表れるものばかりではない。見ようと思って見なければ,見えない。社会科は必要な視点を獲得させ,そのような目を育てる教科でありたい。視点を持てば見えてくる社会の面白さ広島大学大学院教授 棚橋 健治棚橋 健治(たなはし けんじ)専門分野/教科教育学(社会認識教育学)主要著書/『アメリカ社会科学習評価研究の史的展開』(風間書房,2002年),『社会科の授業診断』(明治図書,2007年)ほか社会科NAVI 2019 v ol.23 3