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概要

社会科NAVI Vol.23

撮影場所/山口県:環境省海洋環境室提供▲環境教育最前線(プラスチック汚染) 最近,ストローを紙化したり,スーパーやコンビニでの買物袋の有料化や配布を撤廃したりと,身近なところでの環境行動に関するニュースをよく目にし,耳にするようになった。 一方,環境教育については,「今日の環境教育は公害教育への取組みが弱く,ESDへの認知度も高いとはいえない。環境教育が狭く自然体験教育として理解されがちな現状もある。加えて,環境教育が主要教科の残余という考えが,一部の教育現場や保護者に根強いことも否めない事実である。」(日本学術会議 2017)との悲観論が相変わらず根強い。 しかし,環境を巡る今日的なトピックや動きには,我々の悲観論を吹き飛ばすだけのインパクトがあるのではないか。そんな仮説や期待をもとに,以下,今日的なトピックとしての「プラスチック汚染問題」について検討しよう。 ところで,プラスチックといえば,社会科においてはごみ関連単元での鉄板教材であった。ごみ問題は,便利さを求めた大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムがもたらした帰結であり,特にペットボトルは日本のごみ問題の象徴であった。そして,一般廃棄物を対象とした国レベルでの容器包装リサイクル法(1997)や,私たちができることとしての3R(Reduce,Reuse,Recycle)の学習へとつなげるのが定番だった。 そもそもプラスチックとは何か。プラスチックとは一言で言うと,熱や圧力を加えることで任意の形に成形できる塑性(plasticity)を持っている1問題提起としてのプラスチック汚染2合成樹脂のことである。石油や天然ガス,石炭といった天然炭素資源を主な原料に,その成分である炭素や水素,酸素,窒素,塩素などの原子を鎖状や網状に長大に連結して作られる。最近ではトウモロコシやサトウキビといった生物資源を原料とするバイオプラスチックも開発されている。つまり,「『プラスチック』という一種類の材料があるわけではなく,多種多様なプラスチックが存在する」(枝廣 2019 pp.3)。 プラスチックには,軽量でどのような形にも成形できる,時間をかけずに大量生産が可能,原料が安価で入手が容易,何より耐久性があるといった特徴があり,今や私たちは周囲をぐるりとプラスチックに囲まれて生活している。 しかし,プラスチックは人間が人工的に作り出したもので自然界には存在しない。また,その特性ゆえに完全に分解されることはなく,たとえ細かく粉砕されて肉眼では見えなくなったとしても,環境の中に確実に存在し続ける。 では,問題の現状はどうなのか,WWFレポート(2019)によれば,次の通りである。・2016年現在,世界のプラスチック生産量は年間 3億9600万tで,これは世界人口一人当たりに換 算して53kgになる。・世界のプラスチック生産量は2000年以後,毎年 4%ずつ増えており,2000年以後に生産された プラスチックはそれまでに地球上で生産された 全てのプラスチックを合わせたものと同量に 達している。2030年までに年間生産量はさらに 40%増えると予想される。・これまでに生産されたプラスチックの75%はす でに最終的なプラスチック廃棄物になってお り,毎年数百万tずつ増えている。・このプラスチック廃棄物全体の3分の1はすでに 自然界に入り込み,海洋,川や湖の淡水域,陸 域を汚染している。プラスチックとプラスチック汚染問題●青山学院大学特任教授 水山 光春4 社会科NAVI 2019 v ol.23