ブックタイトル社会科NAVI Vol.23
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社会科NAVI Vol.23
水山 光春(みずやま みつはる)専門分野/社会科教育・環境教育・シティズンシップ教育最近の著書/「環境学習のラーニング・デザイン」(共編,キーステージ21,2019 年)/「『18 歳選挙権』時代のシティズンシップ教育』(共著,法律文化社,2019 年)/「教育の課程と方法」(学文社,2017 年)日本文教出版「中学社会地理的分野」教科書著者●3プラスチック汚染問題とこれからのSDGs としての環境教育 加えて今,注目を浴びているのが,海洋プラスチック問題である。先般のG20大阪サミット(2019年6月)でも主要議題の一つであったことは記憶に新しい。WWF資料に曰く,・すでに世界の海に存在しているといわれるプラ スチックごみは合計で1億5000万tである。そこ に少なくとも年間800万tが,新たに流入して いると推定される。・こうした大量のプラスチックごみは,既に海の 生態系に甚大な影響を与えており,このままで は今後ますます悪化していくことになる。 (WWFジャパン 2018) 海洋プラスチックにも関連して,今,大きな問題になっているのがマイクロプラスチックである(以下,MPと略す)。MPとは長さが5mm以下の微細なプラスチックのことで,その生い立ちから一次MPと二次MPに分けられる。二次MPは,もとは5mm以上あったものが,波の衝撃や紫外線の影響,魚やウミガメが餌と勘違いしてかみ砕くなどしてより小さなプラスチック粒子となったものである。 一次MPには,もともと5mm以下に作られたものと,プラスチック製品がその製造・使用中に発生したものとがある。前者は,洗顔料や歯磨き粉に使われているスクラブ剤(研磨剤)がそれで,スクラブ1gあたり数千個のMPが入っていると言われている。後者の主なものには,合成ゴムでできた自動車のタイヤが摩耗して発生するものや合成繊維の洗濯くずがある。例えば,洗濯機でポリエステルのフリースを洗うたびに,10万本以上の繊維が水路に流出しているという研究結果もある(枝廣 pp.10 -11) MPはまた,漂流中に化学物質が吸着することで有害物質が含まれていることが多く,しかも食物連鎖によって有害物質は生物濃縮されていく。しかし,海洋に広く拡散するMPは,微細であるために,その回収はきわめて難しい。【参考】・ 日本学術会議「提言 環境教育の統合的推進に向けて(2016.11.16)」 (2018 年)・ 枝廣淳子「プラスチック汚染とは何か」岩波ブックレット1003(2019 年)・ WWF Report「Solving Plastic Pollution Through Accountability」 (2019.03.05)」(2019 年) ・ WWF ジャパン「海洋プラスチック問題について」https://wwf.or.jp/ activities/ basicinfo3776.html(2018年) プラスチック汚染問題が深刻かつ喫緊の問題であることは以上に述べた通りだが,この問題に対して世界が手をこまねいているわけではない。 SDGs「国連持続可能な開発目標」でも,「海洋・海洋資源の保全(目標14)に「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し,持続可能な形で利用する」とあり,「2025 年までに,海洋堆積物や富栄養化を含む,特に陸上活動による汚染など,あらゆる種類の海洋汚染を防止し,大幅に削減する。」(14-1)というターゲットも設定されている。 そもそも「持続可能な生産と消費の形態を確保する」(目標12)では,「2030 年までに,廃棄物の発生防止,削減,再生利用及び再利用により,廃棄物の発生を大幅に削減する。」(12-5)とのターゲットが示されており,我々の社会構造そのものの見直しが求められている。 かくして,プラスチックはごみ処理やごみ処分場の確保という問題から,極めて身近である特徴はそのままに,海洋を含む全生物,全地球的な問題へとその教材的価値を広げつつある。と同時に,これからの新しい環境教育の方向を示しているともいえるだろう。▲ 出典:九州大学磯辺研究室社会科NAVI 2019 v ol.23 5