ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

社会科navi Vol.8

みんぱくワールドシネマ【第9回】ラテンアメリカ諸国からの米国移民を描いた映画案内~『ヒア・アンド・ゼア』を中心に~国立民族学博物館准教授鈴木紀(C)Aqui y Alli Films and Torch Films【ヒア・アンド・ゼア】●2012年メキシコ・スペイン・アメリカ映画,110分(日本劇場未公開)監督/アントニオ・メンデス・エスパルサthe film "Aqui y Alla" directed by Antonio MendezEsparza国立民族学博物館では平成26年8月30日に第27回みんぱくワールドシネマを開催し,映画『ヒア・アンド・ゼア』を上映した。本稿ではこの映画を中心に,ラテンアメリカ諸国からアメリカ合衆国への移民を描いた映画を紹介する。『ヒア・アンド・ゼア』米国へ出稼ぎに行き,金を稼いで帰国するメキシコ人には夢がある。映画『ヒア・アンド・ゼア』の主人公ペドロの場合は,昔の仲間とバンドを組んで,プロのミュージシャンとして活躍することだった。歌と作曲には自信があり,ピアノの腕もいい。帰国後さっそく練習を開始した。しかし現実は甘くない。不景気で演奏の依頼は少なく,ギャラも安い。バンドを去るメンバーも現れた。家庭では妻が体調を崩し,医療費がかさむ。子供たちの教育費も必要だ。こうしてペドロは再び国境の向こうを目指すことになる。妻の「行かないで」という願いも虚しく。故郷を離れる理由移民が米国を目指すのは貧困のせいだと言われる。『ヒア・アンド・ゼア』にもその説明は当てはまる。ただし,ここで描かれている現代メキシコの貧困は,食うや食わずの極貧ではない。安定した収入が得られず,中流の暮らしを維持できないことが問題なのだ。そして家計の苦しさにもまして辛いのは,メキシコの庶民にとって大切な「助け合い」を実践できないことである。助けを乞うばかりの生活では,みじめな気持ちがつのるのだ。移住の理由としてもう一つ重要なのは,政治的な迫害だ。『エル・ノルテ約束の地』(表の1)は,グアテマラの先住民族が米国に渡る物語だ。映画制作当時のグアテマラでは反政府ゲリラ活動が活発で,政府軍はゲリラの疑いがある市民を容赦なく虐殺したという。映画の冒頭で描かれるのは,政府軍に追われて命からがら故郷を去るエンリケとロサの兄妹の姿である。18