ブックタイトル社会科navi Vol.8
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社会科navi Vol.8
番号映画名原題制作年監督制作国1エル・ノルテ約束の地El Norte1983Gregory Navaアメリカ・イギリス2おなじ月の下でLa Misma Luna2007Patricia Riggenメキシコ・アメリカ3明日を継ぐためにA Better Life2011Chris Weitzアメリカ4ブレッド&ローズBread and Roses2000Ken Loachイギリス・フランス・ドイツ他5メキシコ人が消えた日A Day without a Mexican2004Sergio Arauアメリカ・メキシコ・スペイン米国での就労移民にとって米国での就労は,経済的なチャンスだが,社会的には少なからぬストレスを伴う。米国で働くメキシコ人を描いた映画に,『おなじ月の下で』(2)がある。9歳の少年カルリートスと,彼をメキシコに残してロサンゼルスで働く母親ロサリオの親子愛が描かれる。離ればなれの暮らしに嫌気がさし,母に会いにいくと決心して家出した息子と,息子の家出を知ってメキシコに戻ろうとする母。2人はすれちがいそうになりながらも,多くの人々に助けられて,やがて再会を果たす。同じロサンゼルスを舞台とする『明日を継ぐために』(3)は,庭師として働くカルロスと10代の息子ルイスの交流を描いていく。カルロスは不法滞在のため,仕事に使うトラックを同僚のメキシコ人に奪われても,警察に訴え出ることができない。ルイスは米国にもメキシコにも馴染めず,所在のない日々を送っている。盗まれた車を捜しだし必死に働こうとする父の姿をみて,ルイスは少しずつ心を開いていく。この二つの映画は,母と父の違いこそあれ,子供の将来のために不法滞在を犯してでも米国で働き続ける移民というテーマが共通である。移民の社会的地位2010年の時点で,米国在住のメキシコ人は1173万人に上り,米国最大の移民集団を形成している。これはメキシコ人が米国の社会,経済に大きな影響を及ぼしていることを意味するが,メキシコ人に対する偏見や差別もまた根強い。こうした移民の社会的地位向上という政治的メッセージを描く映画もある。『ブレッド&ローズ』(4)は,ビルの清掃員として働くメキシコ人姉妹マヤとロサを軸に,低賃金や不当解雇などの形で移民を搾取する米国企業の内実を告発する。不法滞在という立場の弱さにも関わらず移民たちが抗議の声をあげる姿は,移民の窮状を打開するための一つのモデルとなる。同様な政治的主張をコミカルに描いた『メキシコ人が消えた日』(5)も興味深い。ある日突然カリフォルニア州からメキシコ系の人々が姿を隠すという想定のもと,社会が大混乱する様子が描かれる。レストランからはウエーターや皿洗いが消え,ガソリンスタンドや洗車場も無人になる。こうして同州におけるメキシコ人の貢献を強く意識させることにこの映画は成功している。日本への視点これらの映画は,いずれもラテンアメリカ出身の移民の諸相を描いており,現代の米国社会を理解する手がかりとなることは言うまでもない。一方で,人手不足を解消するために移民を導入する計画が語られ,実質的に多数の留学生や研修生がすでに就労している現代の日本に思いを巡らせば,こうした物語は太平洋の向こうの他人事ではない。「人手」でなく「人間」として移民の人々と付き合っていくために,映画から学べることは少なくないと思われる。著者紹介鈴木紀(すずきもとい)専門分野/開発人類学,ラテンアメリカ文化論主要著書/『国際開発と協働:NGOの役割とジェンダーの視点』(共編著,明石書店2013年),『朝倉書店世界地理講座14ラテンアメリカ』(共編著,朝倉書店2007年)19