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概要

社会科navi Vol.8

特集これからの社会科教育にのぞむもの市民的資質をどう教え,どう評価するか京都教育大学教授水山光春社会科は,社会認識を形成し市民的資質を育成する教科であると言われるが,特に後者の市民的資質とは何であり,それはどのような方法によってより良く育つのかについては,未解明の部分が多い。本稿では,最近発表された三つの資料(CERI,文部科学省,PISA)を取り上げ,それらが示唆するものを通してこの問いにせまりたい。1)OECD教育研究革新センター(CERI)(2011)『教育と健康・社会的関与-学習の社会的成果を検証する-』明石書店本書はOECDの「学習の社会的成果プロジェクト」の成果をまとめたものである。「市民的資質の学習が,投票率の向上や社会的結束の促進に必ずしも貢献していないのではないか」という本質的な問いに対して,本書は,「シティズンシップの学習が生じるのは知識が状況に埋め込まれている」時であるという。すなわち「関与の機会と価値に関する情報を抽象的に子どもたちにより多く提供しても,彼らの将来的な参加水準を向上させない」。それが真に向上するのは,「慎重に計画された体験活動」の後に,「シティズンシップの授業の中で省察させた」時であると答えている。2)文部科学省(2014)「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会-論点整理について-」本資料は,次期学習指導要領に向けての基礎資料を得るため,文部科学省が省内に設置した検討会の議論の結果を取りまとめたもので,目下,教育関係者の間では最重要文書の一つとなっている。検討会の当初の問題意識は以下の通りであった。〇従来の学習指導要領は,全体として各教科においてそれぞれ教えるべき内容に関する記述を中心としたものになっている。このことが,各教科等で縦割りになりがちな状況の改善を妨げるとともに,今なお多くの学校において,学力についての認識が「何かを知っていること」にとどまりがちであり,知っていることを活用して「何かをできるようになること」にまで発展していないことの背景にもあるのではないか。そして,次のように検討結果をまとめている。〇今後育成が求められる資質・能力について検討するに際しては,自立した人格を持つ人間として,他者と協力しながら,新しい価値を創造する力を育成するために,例えば,「主体性・自律性に関わる力」「対人関係能力」「課題解決力」「学びに向かう力」「情報活用力」「グローバル化に対応する力」「持続可能な社会づくりに関わる実践力」などを重視すること。〇育成すべき資質・能力に対応した教育目標・内容については,現在の学習指導要領に定められている各教科等の教育目標・内容を,以下の三つの視点でその意義を明確にしたりすることを検討すべき。ア)教科等を横断する認知的・社会的・情意的な汎用的なスキル(コンピテンシー)1認知的・社会的・情意的な汎用的なスキル2メタ認知イ)教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方,処理や表現の方法など)ウ)教科等に固有の知識や個別のスキル社会科に引き寄せてこれらの資質や能力について考えるならば,社会科はこれまでイ)やウ)については熱心に議論してきたが,ア)の「汎用的なスキル」,特に認知的・社会的なスキルについての議論は十分に行ってこなかった。ちなみにOECDのDeSeCoプロジェクト(1997 ? 2003)はキーコンピテンシーとしてのこれらのスキルを,認知的スキルとしての「反省性」と社会的スキルとしての「自律的活動力」「異質な集団での交渉力」に分けている。社会科では今後,特に社会的スキルとしての「異質な集団での交渉力」についての研究が必要になるだろう。2