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概要

社会科navi Vol.8

(グローバル・ガヴァナンス)のあり方にも影響を及ぼします。実際にも,台頭する諸国の国際制度での地位と実際の影響力との間にはすでにギャップが生じています。そのため,国際的な意思決定のために,新興大国を新たにメンバーに加えるようになっています。OECDやG8だけでは,世界の経済問題を論じても実効性があがらず,2008年にはG20の枠組みが導入されました。それでは,新興大国が秩序運営に加わったことは,単にG8などのいわゆる「大国クラブ」のメンバーが拡大したものとみるべきなのでしょうか。あるいは,そのことがグローバル・ガヴァナンスのもととなっている価値やルールに変化をもたらすのでしょうか。つまり,新興大国は,これまでの「アメリカ覇権」に対して,異なる秩序を主張するのでしょうか。新興大国によるグローバル・ガヴァナンスへの関与はまだ断片的で,現時点で結論づけるのはあまりに時期尚早ですので,最近の具体的な例をみてみましょう。国際金融機関での変化金融・開発協力分野では,パワー・シフトの結果を反映せざるをえない状況になっています。2010年に行われたIMFのクォータ(出資の割り当て額)見直しでは,中国がヨーロッパ勢を抜き3位になり,ロシア,インド,ブラジルも10位以内に入りました。世界銀行でも同様に2010年の議決権改革では,中国がヨーロッパ勢を抜き3位,ロシア,インド,ブラジルが10位以内に入りました。これらの機関では議決権が出資比率に比例するため,新興大国の発言力が高まることが予想されます。しかし,こうした出資比率や議決権における変化が,これらの機関の具体的な政策方針や依拠する原則や価値に大きな変化を及ぼすのかどうかは,まだ分かりません。むしろ,これらの新興大国が,従来型の国際制度やルールの枠内に取り込まれていくという側面もあります。つまり,グローバル・ガヴァナンスにかかわる「大国クラブ」が新興大国の参入によって拡大しているという見方です。貿易の分野でも,新興大国は国際ルールの土俵の上で発言や行動をしています。例えば,中国はWTOで数多く訴えられ敗訴しても,WTOの手続きに則って不服ならば上訴するわけです。人権や民主主義という価値・制度をめぐって他方で,人権・民主主義などの価値に大きくかかわる問題分野では,異なる動きも見られます。現在のグローバル・ガヴァナンスに大きな影響力を持つアメリカ,EUなどは人権の重要性を強調し,そのために内政不干渉原則の例外として主権を超えた介入も時として認めてきました。これに対して,新興大国の共通点の一つは,西洋の支配を受けた経験(ロシアはその意味で異なります)です。中国は人権や民主主義等の価値について外国からの介入を認めませんし,インドは世界最大の民主主義国ではありますが,やはり主権の問題には敏感です。多くの途上国にとって,非西洋の新興大国が提示する政策は,先進諸国中心のグローバル・ガヴァナンスよりも正当性を持つ可能性があります。中国型発展モデルへの関心中国を例にとれば,その経済発展戦略が従来型の欧米による開発政策の対案としての魅力を持ち,中国の「ソフト・パワー」(軍事力や経済力など直接的な力ではなく,文化などを通じた影響力)が途上国で高まっていると論じる人もいます。「中国型発展モデル」は,一部の途上国の政治指導者に対して,権威主義的な政治体制のもとで市場経済を発展させるモデルにもなっています。次回(第三回)で詳しくみますが,経済自由主義に基づく援助(ワシントン・コンセンサス)とは異なる,「北京コンセンサス」による中国型の経済援助手法はいろいろな意味で関心を呼んでいます。23