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概要

社会科navi Vol.8

1)から,その特質を捉えている段階(ステージ3),その特質を目的に照らして説明できる段階(ステージ5)等のように設定した。調査の結果は,第4学年の児童の多くは,税金にはどのようなものがあるかを挙げることはできるものの,何かのために支払わなければならないお金といった程度の認識しか持っていないことを示していた。しかし,その一方で,約4分の1の児童は,皆が必要とするものを買うために皆で負担するお金という税金の意味について既に理解していたことも明らかになった。このことは,学習によって税金に対する児童の認識を成長させ得る可能性があることを示唆している。そして,実際に,先に述べた課題に取り組ませることで,「皆が必要とするものを手に入れるためには負担を皆で分かち合うべきだ」ということに気付いた児童は,税金についての認識を変容させより高いレベルの認識に到達していったのである。この調査の過程では,さらに興味深い事実が明らかになった。それは,皆が必要とするものを手に入れるための負担をどのように配分すべきかを決定するにあたって,公正な配分の仕方や決定の方法に関して,第4学年でという年齢でも児童なりの考えを既に持っているということである。例えば,それは本当に皆にとって必要なものであるかどうか,負担の生活への影響は一人ひとり同じかどうか(家庭の収入によって負担の影響が異なること)といった点について言及する児童が見られたのである。先に述べたように,中学校社会科では「効率と公正」の概念を身につけ,活用できるようになることが求められているが,小学生の段階でも,日常生活の経験から,やや曖昧ではあるが公正さに関わる見方や考え方を既に獲得していると言える。有権者教育プロジェクトでは,このような調査の結果に基づいて小中高それぞれの学校段階で実施可能な教育プログラムを,税金,議会,選挙といった有権者教育に不可欠な基本的概念に関して作成した。その際に留意したことは,上記の調査でも明らかになったように,児童は既に自分なりの見方や考え方を獲得しているので,それを学習の中で活用させつつ,それだけでは十分解決できない課題に取り組ませることで,見方や考え方の成長を促すということである。見方や考え方は,たとえそれが間違いのないものであっても,教師から一方的に押し付けられるものではない。児童が自分で成長させていくものである。そのために必要な支援を工夫することがプログラム開発でもっとも留意した点である。3.おわりに現行の学習指導要領では,小学校社会科において政治に関する学習が本格的に始まるのは第6学年からである。しかし,児童は我々が思っている以上に早い段階で政治に関する見方や考え方を身につけており,そのため,より早い学年から政治に関する学習を始めるが可能であることが,我々のプロジェクトから明らかになった。実際,米国などでは,初等教育の段階から自由や権利といった抽象的な概念によって事象を捉えさせる学習がなされている。子どもは身近で具体的なものしか認識できないという先入観を捨て去り,事象を捉える枠組みである見方や考え方の指導に取り組み,優れた有権者(主権者)を育てていくことが,小学校社会科に強く求められている。著者紹介桑原敏典(くわばらとしのり)専門分野/社会科教育学主要著書/『中等公民的教科目内容編成の研究―社会科公民の理念と方法』(風間書房,2004年),『小学校社会科改善への提言―「公民的資質」の再検討―』(日本文教出版,2004年),『中学校新教育課程社会科の指導計画作成と授業づくり』(明治図書,2009年)他日本文教出版『小学社会』『中学社会公民的分野』教科書著者5