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概要

社会科navi Vol.8

いく。一方で,浄水場のような公的機関の人たちの工夫や努力について考えることは,「飲料水の確保については,水源を確保するための対策や水源地から各家庭などに供給されるまでの事業を,計画的に進めている」という見方考え方を獲得させることになるだろうし,それは「国民の生活と福祉の向上を図るために,市場の働きにゆだねていることが難しい問題については,国や地方公共団体が役割を果たしている(中学校公民的分野)」という見方考え方,つまり「市場の失敗と政府(地方公共団体)の役割」という見方考え方へと発展していこう。もちろん,小学校の時点で正確な理解を求める必要はないだろう。上記のような「学びの発展」を見据えて,商店や農家の働きに見られるような収益や効率を意識した工夫や努力と,浄水場や消防・警察の働きに見られるような公平や安定を意識した工夫や努力など,それぞれで扱う工夫や努力の質の違いに気付くことができるような授業づくりが求められる。も取り上げられてはいるものの,工業の立地を「交通」という視点から読み解いていくところに特色がある。そのような「学びの履歴」を意識した上で,中学校の地理的分野においては「必ずしも交通の便が良いとはいえない内陸部に工業が立地しているのはなぜか」,「そのことを踏まえると工業はどのようなところに立地するといえるか」といった問いが設定できれば,「生産物の種類に応じて生産のコストを最も低く抑えられる場所に工業は立地する」という,より説明力の高い見方考え方へと成長させていくことができよう。中学校では,小学校までの「学びの履歴」の中で身に付けてきた見方考え方では説明がつかない事実に出合うことで,既有の知識体系と新たな事実を結び付け,より説明力の高い見方考え方へと成長させていくこと,すなわち「知識の変革的成長」を小学校以上に意識したい。そうすることによって,子どもたちにとっても説明ができそうでできない事実に出合うことで,知的好奇心が刺激され,学習意欲の向上も期待できよう。3.「学びの履歴」を意識した中学校社会科における授業づくり一般的には中学校では,小学校よりも詳しく教えることが主眼となりがちで,そういう意味で,「知識の累積的成長」3)がめざされることが多いと思われる。しかし,それでは,知的好奇心が喚起されにくいだろうし,何よりも再び社会科を学ぶ意義が実感されにくいであろう。そのため中学校では,小学校での「学びの履歴」を意識した上で,小学校以上に「見方考え方の成長」をめざした授業づくりが求められる。例えば,小学校第5学年の「我が国の工業生産」についての学習では,「交通の便がよいところに工業は立地する」という見方考え方の獲得がめざされており,太平洋ベルトが大きく取り上げられている。もちろん内陸部に立地する工場の存在4.魅力ある授業づくりの主役としての教師「社会科=暗記」というイメージを脱却し,魅力ある社会科授業の創造のためには,各教師が授業づくりの主体者として,日々の授業づくりの中で「見方考え方の成長」や学びの「履歴」や「発展」をどれだけ意識できるかが何よりも重要であろう。先生方の奮闘を期待したい。【註】1)大杉昭英他『新中学校教育課程講座社会』(ぎょうせい,2000年,pp.163-165)を参照2)森分孝治『現代社会科授業理論』(明治図書,1984年)3)同上書著者紹介角田将士(かくだまさし)専門分野/社会科教育主要著書/『戦前日本における歴史教育内容編成に関する史的研究』(風間書房,2010年),『新社会科教育学ハンドブック』(共著,明治図書,2012年)他9