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概要

図工のみかた 07号

〔関連〕 自分の思いを生かした創造的な活動を楽しむ過程を通して、「技能」を育成することが重要である。(学習指導要領解説より引用)〔関連〕 児童一人一人の自分なりの「技能」は、 豊かな思いに基づいた〔関連〕 「技能」は、一定の手順や段階を追って身に付くだけではなく、変化する状況や課題に応じて主体的に活用する中で身に付く。(学習指導要領解説より引用)02 07山田芳明先生(以下、山) 子どもってさ、落書き楽しそうにかくやん? 『図工のおきぐすり注』で壁に絵をかくワークショップをしたときにね、ある男の子が自分の背丈と同じくらいの大きな怪獣をかいたわけ。スルスルーってよどみなく、体全身を使いながら。それが、すごく楽しそうでね。本来、絵をかくってそれくらい奔放でいいのに、授業になると、子どもが「下書きしていいですか」とか聞いてきたり、間違わへんようにちょっとずつかいたりする。あれって、授業でかく絵が本来の奔放さから離れてるってことじゃないか、本気で考えなアカンなぁって最近すごく思うんですよね。編集部(以下、編) のびのびかいている子どもからは、「こうしたい!」という気持ちが伝わってきますよね。山 そう。だって、かきたいことを、かきたいように、かいてるからね。ゼミの学生がね、小学校2年生のときにかいた絵が嫌いでたまらなかったって言うんですよ。「なんで?」って聞いたら、先生にかき方を事細かく指示されて、その通りにかいたら普段の自分の絵じゃなくて、「気持ち悪い絵!」って思ったって。自分の思いを自分らしく表すのが図工でしょ。学習指導要領解説でも「自分の思い」って言葉がたくさん出てきてるし。それなのに、その自分が嫌やと思う絵をかくということは不幸やとぼくは思うんです。編「 こうかきましょう」と先に言われてしまったら、「こうしたい!」という思いは生まれにくいですもんね。山 そうそう、「かきたい」があるからこそ、かき方を工夫しようとする。それが知識や技能の獲得につながりますよね。例えば、キャラクターをかきたい、みたいなところから、意外とみんな始まってるんちゃうかなとも思うんですよ。ぼくも子どもの頃はマジンガーZがかきたくて、練習して、直立ポーズをかけるようになって。そこから、あんなポーズもこんなポーズもかきたいって思いが自分の中に生まれたら、どんどん試行錯誤するわけでね。やっぱりそこが大切。だから、子どもがキャラクターかいてたら、頭ごなしに「アカン!」って言うんじゃなくて、「じゃあ、こんなポーズしてるの、かける?」なんて導き方もあるんちゃうかな。注:最後のページの「図工のみかたのみかた」参照山 ある研究会でね、木材で妖精をつくる題材で、妖精に手を付けようとしていた子がいたんです。その子が使ったのが、配線用のステープル。木と木をつなぐんじゃなくて、胴体にステープルを四角に打ち込んで、そこに手をはめようとしてた。でも、全部打ち込んでからはめてみたらスカスカで。打ち込んだステープルを全部外して、また打ち直して。今度はグッと手がはまって、最後はその子がすごく満足する、いい妖精ができたんです。編 面白いですね! そのとき働いていたのは、技能? 発想?山 もちろん両方。技能って「工夫」、つまり自分なりに思いを実現する力なんです。「妖精に手を付けたくて、こんなふうに付けたんだね」って子どもの発想が見えるということは、技能を働かせて発想を形にしたということ。技能と思考力が結びついたから、形になったんです。編 形になっていなければ、どんなことを発想したのか、頭の中は分からないですもんね。山 そう、でも実現しようと試みている姿は見えますよね。編「 いいこと考えた!」んだけど、うまくできない、という?山 そう。そこで、思いを表現として結実させていく力、技能が求められるんやないかな。やまだ・よしあき 1965年、大阪府生まれ。大阪教育大学附属平野小学校を経て、現在鳴門教育大学大学院学校教育研究科教授。国立教育政策研究所 学習指導要領実施状況調査結果分析委員、「図工のおきぐすりプロジェクト」共同代表、「全国図工授業づくりユニオン」西地区代表を務めるなど、日本文教出版小学校図画工作教科書の著者の一人として美術教育の発展に努める。編「 いいこと考えたんだけど、うまくできない」ときに、先生はどうするんですか。山 その子の過去の経験を掘り起すような言葉がけをするとかしてアドバイスするのが先生。その子自身の力で思いを実現できるようにサポートすることで、その子の経験として蓄積されることを大事にしたいんです。さっきの妖精の話でも、ステープルを全部打ち直すって、時間もかかるし、言ったら失敗かもしれない。でもね、この時間があったから、この子は挟まり具合の加減とか、少し狭いところへグッと差し込む感覚を経験できた。この経験は別の形できっと生きてくると思うねんなぁ。編 試しながら「自分の力で実現した」経験は、どこかで生きてくる?山 そう。人から「この通りにやりなさい」って言われて、そのときはできたとしても、その場だけの経験。違う場面で生かせる技能にするには、自分で考えて、試してって経験が必要だと思います。思考の伴わない技能はない。道具だって、「基本的な使い方」はあるけど、「どんな場面でも通用する使い方」はないでしょ。例えば鉛筆を、いつもとがらせて、同じ持ち方で使う必要はなくて、かきたいものに合わせてとがらせ方も持ち方も変えますよね。編 確かに、そのときの状況や、自分の思いに合う方法は様々ですよね。正しい「妖精の手の付け方」なんてないですし。山 それに、先生が先回りして「次はこうしてね、はい、できましたか?」って言って失敗を回避していたら、本当ならもっと豊かに経験できることもできなくなるんちゃうかな。失敗してもいいし、つくり直してもいい。それくらいの大らかさをもって子どもたちを受け止められればいいなって思うのよね。山 図工って、人がやっていることをすごいなって思える、同時に「自分やったらこうするな」って考える、そういう子どもを育てている時間やと思っててね。前に、自分たちのすみかをつくるって題材を見たとき、ある子が入口にタッチセンサーを付けたら、他の子たちもまねるんやけど、「うちはピンポン(呼び鈴)や」「うちは暗証番号や」ってそれぞれこだわり出して、面白かったなぁ。子どもって、部分にすごいこだわってて、その部分の積み重ねの上に全体ができていく。そやから、全体の進行も大事やけど、部分のがんばりを先生には見てほしいと思います。編「 自分だったら」って考えるのは、まさに創造していることですね。山 そう。常識的な手続きがダメなときに、別の角度から新しいやり方を思いつくというか。「これどうするの?」って場面でも、「それムリ」って言うんじゃなくて、「こうしたら、こんな素敵なことが起こりそうや」って考えようとする姿勢がね、図工が大切に育てていることちゃうかなって思うんです。編 山田先生がそうですよね。だれかが「これどうしよう?」って言ってたら、「なになに? 俺やったらな……」って面白いこと考えようとするでしょ(笑)。山 だって、先生がそうじゃなくっちゃ、子どもがそういう姿勢にならへんやん(笑)。編 その姿勢が、先生の取り組む活動につながるわけですね。『こうしたい!』始まるという思いから思いを形にする力、それが技能図工スピリッツ『自分だったら! 』が豊かな経験が技能になる今号のキーワードは、「技能」。子どもの姿と図工の見方について、図工の味方、山田芳明先生に聞きました。(鳴門教育大学教授)語り手次ページにつづく「思考力、判断力、表現力等」とともに働いて、初めて発揮されるものである。(学習指導要領解説より引用)