ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

図工のみかた 08号

今号のキーワードは、「主体的・対話的で深い学び」の中の、「深い学び」。子どもの姿と図工の見方について、図工の味方、竹井史先生に聞きました。語り手図工ってなんだ?〔関連〕資質・能力を活用・発揮しながら、「学習の対象となる物事を捉え思考することにより、各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下『見方・考え方』という。)が鍛えられていく(後略)」(小学校学習指導要領(平成29 年告示)総則より引用)たけい・ひとし1959年、大阪府生まれ。富山大学、愛知教育大学教授、愛知教育大学附属名古屋小学校長等を経て、現在同志社女子大学現代社会学部現代こども学科教授。ものづくりによる地域活動を継続し、これまでに7万人の親子と触れ合う。名古屋市造形研究会顧問など、日本文教出版小学校図画工作教科書の著者の一人として美術教育の発展に努める。その子のしたいことに寄り添う思い通りにならないことから学ぶ深イイ学び深イイ学び深イイ学び『ぼくらの役割は、7歳の子なら7歳の子の世界を生き切れるように支援すること。』『土と関わることが、人と関わるという応用問題を解くきっかけになる。』『花を咲かせようとして、無理やりつぼみを開く人はいないよね。』竹:ぼくの考える図工って、つくるのは半分くらい。それ以上に、つくったものを通して人とつながる体験や、つくる前の感性を働かせる経験が大切。特に自然と関わる感覚的体験を通じて、もっといろいろなことが学べると思っていて。例えば粘土。油粘土は放っておいても硬くならないし、いつでも人間の言うことを聞いてくれる。でも、土粘土は水が多ければベチャベチャになるし、少なければひび割れて、思い通りになってくれない。だけど、そこで子どもたちはどうしたらいいんだと考えるじゃないですか。そのときに、まずは自分が相手に寄り添って、何をどれぐらい、どうしたら、どういう状態になるかと学ぶわけです。相手のことを知りながら、調整しながら、最終的に表現につなげていく。それは人間が自然環境に関わる上で非常に重要なことじゃないか、もっと言えば、環境教育を考えるときの原体験になるんじゃないかなって思っているんです。編:そういう意味では、材料に触れることがESD(持続可能な開発のための教育)につながっている。竹:そう。油粘土は、そのときの思いをガッと形にしていくときにはいい素材ではあるんだけど、それだけやっちゃうと人間が自然界の頂点っていうふうに勘違いしちゃうような。編:なんでも自分の思い通りになるって思っちゃう。竹:そうそう。自然の素材を使って遊べるということは、子どもたち自身が調整力を学んでいくということなんちゃうかな。図工って、目や手で、面白くっていい気持ちを楽しむ時間。だから、自然の素材をどんどん使って、扱いにくさも含めて、先生も子どもも楽しんでほしいなって思います。編:子どもに寄り添った上での手立てや支援って具体的にどうすればいいのでしょうか。竹:例えば、低学年でクワガタの絵をかいてた子がいて、よく見ていると、この子はクワガタのメカニックな感じというか、足や触角の細かいところまでかきたいのかなってぼくは思った。別の子はザリガニをかいてて、甲羅の色に興味があるような気がする。そうすると、クワガタの子はパスだけだと細かな線は難しいからペンも必要かな、ザリガニの子は甲羅の色合いを表現するのに絵の具が必要かなって思えてくる。その子の思いやこだわりがあって表現の方法は決まっていくので、それに対してどう支援するかなんです。編:そういう支援を経験することで、子どもたちは、思いに合わせて自分で表現方法を決めて、材料や用具を準備するようになっていきますもんね。竹:そう、思いを基に表現できるよう、環境を整えることが「深い学び」のために大切ですね。声かけも一緒で。ある学校で、砂場で造形遊びをしたとき、子どもが、初日はツルツルのお団子を丁寧につくっていたのに、次の日は雑につくっていたらしいんです。担任の先生は、どうして雑なのか不安になった。でも子どもに聞いてみると、昨日はきれいな団子をつくりたくてつくって達成感があった、きょうはお団子屋さんごっこをしたいからたくさんつくりたいって。その子のしたいことが前日と違ったんです。そこで「どうして昨日みたいにつくらないの」って丁寧につくらせようとしても意味がない。編:例えば、「これはどんな味?」って声をかけたり?竹:そう。特に造形遊びってしたいことがどんどん変わっていくものだから、その子のしたいことに寄り添って、その気持ちを感じることが支援につながるはずです。そういう意味では、「図工が苦手」と思っている先生は、子どもの「図工が苦手」という気持ちを感じられる、いい先生。子どものつまづきポイントに気が付けるんですから。〔関連〕 造形遊びをする活動において「『つくり、つくりかえ、つくる』は『深い学び』に向かう学習過程であり、このような学びの過程を子供自身が実感できるようにすることが大切である。」(初等教育資料No.961 p.7 より引用)竹井史先生(以下、竹):子どもって、大人にとっては不思議な色を塗るときありますよね。ぼくが2年生を担任したとき、授業でニワトリを見に行ったあと、学校に帰って図工でニワトリの絵をかくことにしたんです。そのときある女の子が、羽と尾を色鉛筆で水色と緑色と赤色に塗ったんですよ。編集部(以下、編):ニワトリは白かったのに、色を付けた?竹:うん。当時は、2年生だしなんとなく色を付けたくなるのはしょうがないのかなって思った。でもやっぱり気になって「なんでこんなふうに塗ったの?」って聞くと、その子が言うんです。先生がじっくり見なさいって言ったから、じーっと見てたら、ニワトリの足に輪っかが付いてるのに気付いた。それで図工の時間、その輪っかのことを思い出したら、なんだかかわいそうになってきた。なんとかして楽しい気分にさせてあげたくて、「そうだ、羽をキレイな色にしてあげれば、ニワトリさんも楽しくなる!」って思って塗ったって。色を塗ったのは幼いからなんかじゃない。ちゃんと、7歳の子なりの理由があった。ニワトリさんを励ましたいという思いがあって、その子なりの表現が生まれたんです。表現に向かうってこういうことだと、はっとしました。編:形や色で意味をつくりだす、まさに造形的な見方・考え方を働かせている姿ですよね。ということは「深い学び」になっている?竹:この子は見方・考え方を働かせながら創造する「深い学び」をしてる。でも本当は「深い学び」ができるようにぼくが授業改善しなきゃダメですよね。こんなふうに子どもはそもそも見方・考え方をもってるんだから、図工の時間はそれを引き出してあげればいい。そのためにその子なりの思いが出てくるようにすることが「深い学び」のスタートになるんです。想像が広がるテーマや、子どもが「こうしたい」と思う仕掛けや手立てを考える。それを考えるには、子どもに寄り添うことが何より大切なんです。思いがあるから、表現が生まれる(同志社女子大学教授)02 07