学び!とPBL
学び!とPBL
1.地方創生イノベーションスクール2030のキックオフ
OECD東北スクールで問題提起した新しい教育の在り方を、東北のみならず、関東や西日本まで広げ、それぞれの地域の実情に応じて組織を作り、実践していきます。ここには東北スクールで十分に取り組めなかった海外との協働(交流ではなく)も含まれます。
「地方創生イノベーションスクール2030」は教育実践ですが、ここから研究成果を抽出し海外発信する組織が「産学コンソーシアム」で、この二つを束ねるのが「OECD日本イノベーション教育ネットワーク(略称ISN:Japan Innovative Schools Network supported by OECD)」です。代表に文部科学大臣補佐官の鈴木寬氏、共同代表に福島大学の三浦が、研究の統括を東京大学の秋田喜代美氏らが担うこととなり、事務局を東京大学に置きました。
2.プロジェクトの目的
プロジェクトの目的をもう少していねいに見ていきましょう。
2015年9月、国連サミットで「持続可能な開発目標SDGs:Sustainable Development Goals」が採択され、持続可能な社会をつくるための世界的な取り組みが始まりました。これは「先進国も含め、すべての国が行動」「人間の安全保障の理念を反映し、誰一人取り残さない」「すべてのステークホルダーが役割を」「社会・経済・環境に統合的に取り組む」「定期的にフォローアップ」という5つの特長を持っています。グローバル社会の課題は一国の努力のみで克服することは困難で、国際的な連携や国境を超えた努力を必要とします。公教育はもはや国内に閉じた伝統的な人格形成や自国の経済発展のためのみに機能すればいいのではなく、若者であっても海外の生徒と手を取り合い、次の社会のあり方をともに考え、創造することが求められるようになっています。日本の教育もまた、このような世界的な潮流に合流しなければなりません。
しかし、世界各国とも伝統的な教育の理念や方法は整備されてはいても、VUCA社会の中で必要な能力とはどのようなものなのか、その能力はどのような教育によってもたらされるのか、それらの教育活動はどのように評価されるのか、それらはどのような教育システムによって可能となるのか、ほとんど明らかとなっていません。いずれもが五里霧中の状態です。であるならば、世界中の様々な実践を集め、教育成果からエビデンス(証拠)を導きだし、これにもとづいて教育政策をつくっていく、というのがOECDのEducation 2030プロジェクトです。Education 2030のスタートにはOECD東北スクールも一役買っています。
地方創生イノベーションスクール2030プロジェクトはEducation 2030と連携し、海外の先進的な教育をわれわれが一方的に学ぶだけではなく、これまであまり注目されることのなかった日本の教育を積極的に発信することもミッションに位置づけられていました。東北スクールを始めとする、東日本大震災からの教育復興も世界へのメッセージということができます。
地方創生イノベーションスクール2030の実践は、決められた一つの方法論に立脚したものではなく、生徒たちの成長を生み出す教育方法と評価の模索以外の何物でもなく、これによって多くの生徒、教師、研究者たちは大いに悩むことになります。
3.広がるネットワーク
和歌山県からは4つの県立高校が連携し参加してきました。中心的な役割を担う日高高校は、独自にアジア高校生サミットを毎年開催するほどのグローバル力を持っています。そのサミットには、OECD東北スクールの高校生も招待されています。「教師自身が学ぶ必要がある」といって、その年の7月には日高高校から8名もの先生方が福島大学を訪問されました。
高等専門学校の全国組織である高専機構もメンバーとなりました。高専内部では様々なPBLが実践され、きわめてポテンシャルの高い生徒がたくさんいるのだが、なかなか発信する機会がなく、この機に多くの高校等と関係を築きたいというものでした。
東北からは、同年4月に開校したばかりの「ふたば未来学園高校」の1年生2名が参加していました。同校は、東京電力福島第一原子力発電所事故で実質的に休校に追い込まれた高校に替わる新設校で、地元の期待を一身に集めた高校であると同時に、OECD東北スクールのPBLベースの教育方針をカリキュラムポリシーに組み込んだ、OECD東北スクールをそのまま学校にしたような高校でした。つい2週間前まで中学生だった彼らの「たくさん学んで地域を復興させたい」という真剣な言葉を、200名ほどの聴衆は重く受け止めていました。