日文の教育情報 No.1 平成15年9月 発行
 
時代は二学期制にむかって大きく動いている
園田学園女子大学
教授 野口克海

  ●研修漬けの夏休み

 今年の夏休みはとても忙しかった。あちこちの府県・市町村から,例年以上に教職員研修のお呼びがかかったからである。
 「どこも,熱心に研修するなあ!」
と始めは感心していたが,どうやら実際はそうでもないらしい。
 「五日制の実施で先生方の夏休みもなくなり,自宅研修も取りにくくなったので,研修でもしないとしょーがないのですわ!」
というのが本音らしい。
 「しょーがないからやる研修に呼ばれているのか?」
 「しょーがないなあ・・・」
と思いながらも,約束してしまって今からキャンセルもできないので,しょーがなしに日程を消化した。
 ある会場でこんなことがあった。千人ほど入る大きな会場に五百人ほどの先生たちが参加していた。人権教育についての研修会だった。会場の前半分が,ガラガラに空いていて,後ろの方に先生たちがかたまって座っていた。
 「講演が始まったら,眠ってやろう。」
という魂胆が見え見えの参加の仕方である。
 私はキレた。舞台から叫んだ。
 「みなさん! 本気で人権教育をやる気があるのですか! 始めから,腰がひけているじゃありませんか。第一,これは講師に失礼と思いませんか? 全員立ってください。全員,前半分に移動願います!」
 帰りの飛行機の中で考えた。40日間も子どもたちを放ったらかしにして,40日間も先生たちがイヤイヤ研修漬けになるような馬鹿げた夏休みは今年かぎりにしたいものだ。

 

  ●子どものためになる夏休みを

 これまでの慣例で,当たり前のように40日間の夏休みが設けられているが,子どもたちにとってどんな意味があるのだろう。めぐまれた家庭の子は,海外旅行に行き,みじめな子は,ずっと一人ぼっちで家にこもっている夏休み。自由研究を自慢げに発表できる子もいれば,毎日同じ絵日記しか書けない子もいる夏休み。夏休みはこれでよいのだろうか。
 先生たちが,子どものいない学校へ出勤して「どう過ごそうか」と考えたり,イヤイヤの研修漬けになっているのなら,もっと子どもたちにプラスになる生かし方はないのだろうか。
 「夏休みを,一学期と二学期の間にある独立した期間と考えずに,一学期の中に組み込んでしまえば,発想の転換ができる夏休みがつくれるのでは・・・。」
 例えば,夏休みの自由研究を総合的な学習におきかえて,総合的な学習を夏休みに集中して取り組んだら,子どもたちは自分たちで生き生きと活動や調べ学習をしないだろうか。毎日の授業から解放された子どもたちが,自由に参加できる行事を,地域の方方と学校とが力を合わせて盛りだくさんに実施できないだろうか。ヒマをもてあましている子どもたちを元気づける自主活動が組めないだろうか。市内の中学校が,夏休みだからこそ,部活動の合同合宿をしたり,交流を深めたりすることができるのではないだろうか。

  ●三学期は短すぎる

 現行の三学期は,1月8日ごろから始まって,すぐに成人の日の三連休があり,2月に入れば建国記念の日の祝日があり,3月は卒業式や期末テストや受験があって,実際の授業は5~6週間しかとれないほど短い。週に1時間しか時間割にない教科は,わずかの回数で到達度評価を実施することになる。相対評価ならテストをして成績順に並べれば評価は可能かも知れないが,一人一人の成長の過程を見る到達度評価は,わずか5~6回の授業では無理である。
 先生たちがゆとりをもって子どもたちを指導し,保護者に説明責任を果たすには,ある程度の期間が必要である。
 二学期制にし,10月から3月までの半年あれば,それなりの指導と評価が可能ではないか。

  ●子どもたちのための二学期制を

 すでに全国のあちこちで二学期制が導入され実施されている。
 ある高校や中学では,二学期制により授業時間数を増やし,大学進学率を上げたり,有名高校への合格者を増やすために実施している。
 ある地域では,教職員の多忙化を解消するために,これまでの夏休みもそのままにして二学期制を導入している。
 二学期制が,一部の保護者の人気を集めるために導入されたり,教職員がラクをするために導入されたりするのは,あまり賛成できない。学校のあり方を決める判断の基準は,「子どもたちのため」であってほしい。
 五日制の完全実施で,夏休みの性格が変わった。総合的な学習の実施や,到達度評価の実施などをめぐって,子どもたちに「生きる力」をしっかりとつけるために,三学期制を改め,二学期制にするというのであれば大賛成である。何のために,誰のために,二学期制が必要かということを,教職員,保護者,地域の人たち,子どもたちとじっくり話し合い,理念をきっちりとおさえて新しい学校づくりをすることが求められているのではないか。歴史の歯車は,すでに二学期制にむかって,大きく回転しているように思えてならない。
 各地教委は学校の意向を受け「学校管理規則」を見直そう。

× ページを閉じる   ▲ ページトップへ
Copyright Nihon Bunkyou Shuppan Co., Ltd.All Rights Reserved.