日文の教育情報 No.8 平成16年4月 発行
 
児童虐待と学校
園田学園女子大学教授  野口克海

  ●虐待と家庭訪問

 民間会社で営業マンをしている友人に久しぶりに会った。
 話題が最近続いてニュースになった児童虐待の事件のことになった。
 「テレビで先生が“家庭訪問をしたけど、親が子どもに会わせてくれなかった”と言ってたよなあ。そんな家庭訪問してて恥ずかしくないのかね。
 ワシら、そんな営業してたら、商品ひとつも売れへんわ」
と抗議口調で私に言った。
 そのテレビのニュースは私も見ていた。
 確か母親が、
 「虐待してるとでも言うのか!」
と怒鳴ったと言う。
 そのニュースに、正直言って、その時私は何も疑問を感じずに、
 「そら、しょうがないわなあ」
という受け止め方をしていたように思う。
 民間の営業マンである彼は、同じニュースを見て、
 「腹が立った!」
という。
 「それでも教師のプロか!」
と思ったと言うのである。
 商品を売り込むために、相手のことをいろいろと調べたり、なんとか近づけるように工夫をしてとっかかりをつくる。
 信用してもらうまで何度も足を運ぶ。商品を気に入ってもらう話し方も考える。営業のプロから見ると、
 「学校の先生って、甘っちょろい! 子どものことを命がけで真剣に守る気があるのか!」
とニュースを見た時に思ったと語る。

 昔、「軒下家庭訪問と告げ口家庭訪問はするな!」
と先輩の先生から指導を受けたこともあった。
 玄関先の軒下で追い返される家庭訪問や、子どもがしでかした事件のことを親に告げ口するような家庭訪問は意味がないということである。
 クラスで一番の非行生の家に、
 「親父さん、今日はとことん息子さんのことを語り合いましょう!」
と、一升瓶を持っていって、朝まで飲み明かしたこともある。
 若い頃の情熱もさめて、ニュースに憤りも感じないようになっている自分が恥ずかしく思えた。

  ●虐待のサイン

 虐待を受けている子どもからも、虐待をしている保護者からもサインは出ている。

[子どものサイン]
●不自然な傷がある
●笑顔がなく表情が乏しい
●給食時の異様な食欲
●いつも不潔である
●人の顔色をうかがう
●身長体重の増加が悪い
●遅刻・欠席の理由が不明
●攻撃的な言動がある
など

[保護者のサイン]
●子どもの扱いが乱暴
●傷に対する説明が不自然
●孤立している
●養育放棄
●家庭訪問や面談をいやがる
●子どもに無関心
●アルコール依存・DV
など

[児童虐待防止法]
 ●学校園所の教職員は、虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、虐待を早期発見し、通告する義務がある。

  ●虐待の悲劇を繰り返さないために

 第一は、教職員の人権感覚をより鋭くし、人権意識を高めるため、「子どもの人権」について学び合うこと。
 第二は、いじめ、不登校、身体の弱い子、生活のしんどい子など、クラスの気になる子にとことん係わり続ける学級づくりをすること。
 第三は、管理職は担任が一人で抱え込んだり、悩んだりすることのないよう、学年や保健室、生指、学校全体のチームワークづくりに努めること。
 第四は、「子どもが一日休んだら家庭と必ず連絡し合い、二日休んだら必ず家庭訪問」など、家庭と学校の連携を密にすること。
 第五は、地域の健全育成団体、保護司、民生児童委員、自治会、青少年指導員などの連携を強め、子どもを守り、子育て支援のネットワークづくりに努めること。
 第六は、もしも虐待が疑われたら、早期発見・初期対応が大切なことから、学校で抱え込まず、児童相談所、警察、少年補導センター、虐待防止協会などに通告し、連携を図ること。当然、教育委員会にはまず連絡・相談すること。

 子どもの危機は学校の危機。自分の学校にふりかかるまでは他人事、まさかウチの学校では………と「危機意識のないのが危機」である。もう一度「子どもの命を守る」ために気持ちを引き締めたい。

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