
日文の教育情報 No.16
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平成16年12月 発行
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学校の「内なる閉鎖性」 |
園田学園女子大学教授 |
野口克海 |
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●「開かれた学校づくり」の4つの側面
今日の教育改革のテーマのひとつに「開かれた学校づくり」がある。
これまでの「学校の閉鎖性」を改め,「学校を開く」ことによって保護者や地域の人たちに「信頼」される学校を築くためである。
地域の人たちに,どんどん学校に来てもらって,交流を深め,学校の様子もたくさんの人たちに見てもらい,隠さず,いろいろな行事を開催し,学校を「地域の文化センター」にしていこうという試みが全国各地で行われている。
順調に進んでいるかに見えるこの「開かれた学校づくり」の様子を見ていて,気になることがひとつある。
それは,「学校を開く」4つの側面のうち,なかなか開こうとしない,開けていない扉がひとつ放置されたままになっているからである。
「開かれた学校」の4つの側面を簡単に整理しておきたい。
まず1つは,学校の施設,設備などハード面を開放することである。
運動場や体育館,コンピュータ室や家庭科室,図書室なども地域の人々に開放している学校も増えた。
校舎の一部を提供して,デイケアーセンターや公民館,地域の集会所のように活用してもらっている学校もある。
このような,ハード面を開く取り組みは,教育委員会の指導や協力もあって,ずいぶんと進んできた。
2つめは,「教育活動を開く」という側面である。
授業参観もこれまでのように,限られた時間だけでなく,「今週は,授業参観週間です。いつでも,どの教室でも見に来ください!」
とオープンにしたり,ゲストティーチャ-に地域の人を招いて子どもたちに指導してもらったり,「総合的な学習の時間」に子どもたちが地域へ出かけて,地域の方々にお世話になったりすることも活発に行われている。
3つめは,「学校運営を開く」という側面である。
「学校評議員」制度や,「学校運営協議会」などをはじめ「学校評価」にも子どもや保護者の評価を取り入れる学校もたくさん増えてきた。しかも,その評価を隠さずに子どもや保護者に報告し,これからの学校のあり方について保護者や地域の人々の声を積極的に取り入れていこうとする努力も熱心に行われている。
すなわち,「学校運営に保護者・地域の声を反映させていく」という営みである。
●学校の中に壁がある
4つめに開かなければならないのが,「教職員の意識」である。
実は,これが依然として開かれていない学校が多い。
例えば,小学校では「学級王国」という壁である。
もう,5年生6年生は発達段階から言っても思春期に入っているのだから,担任が一人で抱え込むよりも,教科担任制を導入する方が望ましいということや,中学校との段差を小さくするためにも,6年生には,できる限り教科担任制を,というのが常識になっている。
理屈では分かっていても,「自分のクラスは他人に触わられたくない」のか,教科担任制が進んでいない学校も多い。
中学校では,1年生の学年集団が,「私らの学年は3年のようにならないようにしよう」とか話し合って,学年の壁が残っていたり,力の生徒指導派と,カウンセリングの保健室派という壁があったりする。
悲しいことに,教職員組合と管理職との間に壁が残っている学校もある。
子どもたちを中心にして,全教職員の心をひとつにしないで「信頼される学校」なんてつくれるはずがない。
にもかかわらず,学校の中に壁がいくつも残っているのが現実ではないか。
「教職員の意識を開く」という点では課題はまだまだある。
先日も,PTAの役員である母親が,
「学校へ行っても,挨拶もしない先生がいます。私たちが邪魔なんでしょうか」
「地域やPTAで行事をもっても,校長さんか一部の先生しか顔を出してくれません。関係ないと思っているのでしょうか,知らん顔して帰っていく先生を見ていると,こちらまでやる気がなくなりそうです」
と嘆かれていた。
こういう保護者の声は,あちこちの学校で聞く。
「公務員」である公立学校の教職員というのは,民間に比べて,サービス精神が足りない。
「お世話になってまーす!」と笑顔で,PTAの役員さんに挨拶することなんて,世間の常識に属することである。
公務員がもっている「変わろうとしない体質」や「ノーサービスの体質」という学校の中の壁はぶ厚い。
「学校を開く」とは,「教職員の心を開く」ことではないか。
著者経歴
元大阪府堺市教育長
元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元文部省教育課程審議会委員
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