日文の教育情報 No.18

平成17年2月 発行

 

不登校への対応とSSN整備の重要性

東京女子体育大学理事
言語教育文化研究所代表理事

 尾木和英

  ●重要課題としての不登校への対応

 平成15年3月に公表された、不登校問題に関する調査研究協力者会議報告書では、その取り組みの重要性について、次のように述べている。

 「豊かな人間性や社会性、生涯学習を支える学力を身につけるなど、すべての児童生徒がそれぞれ自己実現を図り、また、社会の構成員として必要な資質・能力の育成を図るという義務教育制度の趣旨から、不登校に関する取り組みの改善を図ることは、わが国社会にとって喫緊の課題であって、早急に具体的な対応策を講じ、実行する必要がある。」

 関係者の努力等によって、不登校児童生徒数の増加傾向に一応の歯止めがかかったことは評価できる。しかし、現在なお不登校の状態にある者が少なくない。不登校の兆候を示す者のことをも視野に入れるならば、ここに引いた趣旨を今一度捉え直し、

(1) ケースに応じる適切な対応のための施策の整備、
(2) 早期発見、早期対応を可能にする各学校の指導・対応組織の整備、
(3) 学校、家庭、地域、関係機関等の協力体制による、きめ細かな対応のための連携ネットワークの整備、
(4) 不登校を生むことのない魅力ある学校づくり、

を中心にこれまでの取り組みの見直しをし、その結果を生かして取り組みの充実を図ることが重要といえよう。

  ●適切な対応、働きかけをどうとらえるか

 対応の基本については広く理解されるようになったが、事例に応じてのきめ細かな対応、働きかけについては、必ずしも十分な理解が得られていない場合がある。働きかけのあり方を短絡的にとらえ、必要とされる早期の対応がなされなかったり、きめ細かな配慮が必要なケースであるのに登校の強要がなされたりすることが現在なお皆無とはいえない状況にある。

 必要とされる支援、働きかけがある一方で、ケースによっては、支援等が登校への義務感、プレッシャーに結びつき、事態を悪化させる場合もある。その意味では、基本的な理解を深め、実際的な対応力を高める研修のあり方が重要ということがいえるかもしれない。

 平成15年報告書には、対応の基本が明示されている。それととともに、登校という結果のみを最終目標とするのではないことが述べられている。子どもが自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立することを目指す適切な対応が大切であるとしている。社会的自立や学校復帰に向けて、主体的に歩みだすことができるよう留意することに大きな意味のあることが述べられているのである。

 報告書を受ける形で平成16年7月に作成されたのが、生徒指導資料第二集「不登校への対応と学校の取り組みについて」(国立教育政策研究所生徒指導研究センター)である。この資料集では、第二章で取り組みの実際について記述されているが、その中の「指導体制の確立」「教育相談の充実」「早期の状況把握と的確なアセスメント」の項に述べられている内容には、特に留意をしたい。

 対応組織に関しては、コーデイネーター的な教員の位置づけが重要になるのであるが、資料集の中では、そのことについて次のように述べられている。

 「コーデイネーターの人選やその機能については、学校の状況(学校規模や教員体制等)によって柔軟な対処が必要になる。小規模校では、コーデイネーターもいくつかの役職と兼務しなくてはならないし、大規模校では、複数でコーデイネーター的な役割を果たすということも考えられる。また、不登校対策委員会などの構成委員についても、状況に応じて臨機応変に入れ替えるという柔軟な考え方での運用が必要になる。」

  ●SSN(スクーリング・サポート・ネットワーク)の整備

 平成16年10月18日、東京代々木オリンピックセンターにおいて、SSN整備事業連絡協議会が開催され、参加された関係者から、各地での創意を生かした取組状況が報告された。

 SSNは、不登校対策に関する中核的機能(スクーリング・サポート・センター)を充実し、学校・家庭・関係機関の連携による、地域ぐるみのサポートシステムを整備するという趣旨による事業である。不登校に関する取り組みには、不登校児童生徒の早期発見・早期対応をはじめ、より一層きめ細かな支援を行うための教員や教育支援センター(適応指導教室)指導員を対象とする研修、家庭への訪問指導などがある。こうした取り組みの中核的な機能を発揮するのがSSNであるが、地域や当面する課題を踏まえて、各地で様々な積極的な取り組みが進められている。

 不適応への対応の内容は多岐にわたる。不登校の要因・背景・状態の多様化を視野に入れた適切なアセスメントと対応の進め方をどうするか。広域SSNの機能をどう発揮し、地域SSNへの支援をどう位置づけるか。社会性、社会的な自立を目指す取り組みをどう工夫するか。こうした課題の克服を意図して、多様な実践がなされている。今後はさらに多様な実践が積み重ねられるとともに、こうした実践を交流することが求められている。

 各学校においては、先導的な実践を受けて一層の指導・対応体制の充実を図ることが期待されている。同時に、自校の特色ある教育活動に重ねて、不登校の解消に機能する魅力ある学校づくりを展開することが重要な課題になっている。


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