日文の教育情報 No.19

平成17年3月 発行

 

卒業式の式辞

園田学園女子大学 教授
守口市教育委員会 教育委員長

 野口克海

  ●感謝の気持ち

 私は現在、大阪府守口市の教育委員会教育委員長をしている。
 毎年、小・中学校の卒業式に出席する。
 教育委員会の事務局から、「教育委員会・式辞」と表書きした巻紙を渡される。
 読むと、格調の高い名文が綴られている。
 それを胸の内ポケットに大切に納めて、式に臨む。

 演壇に上がると、卒業証書を校長先生からいただいたばかりの子どもたちの顔が並んでいる。
 普段と違って、卒業生全員が私の顔を見つめ、私の言葉を待っている。
 そういう視線に出会うと、私は巻紙に視線を落として棒読みする気持ちがなくなってしまう。
 どうしても、子どもたちの目を見て、視線を合わせて語りかけるようにお祝いの言葉を述べなければと思ってしまう。
 内ポケットから、巻紙を出す。
 「教育委員会・式辞」
と表書きを読む。
 巻紙をそのまま、演台の上に置いて卒業生たち一人ひとりの表情を見る。
 「卒業生の皆さん。卒業おめでとうございます」
 「今日は、二つのことを皆さんに話したいと思います。
 そのひとつは、今、校長先生からいただいた卒業証書、それは自分だけの力でいただいたものではありません。
 皆さんが小さかった頃、病気をした時、お父さんやお母さん、あるいは家族のみんなが皆さんを必死になって看病してくれました。
 皆さんがこんなに大きくなって、立派に卒業証書を手にすることが出来たのも、皆さんを支え、育ててくれた家族のおかげです。
 先ほども、校長先生から皆さんが卒業証書をいただいている時、保護者の席を見ているとハンカチで目頭をおさえているお母さんがおられました。
 ここまで、立派に育ってくれた皆さんの姿を見て、
 『苦労した甲斐があった』
と、嬉しい気持ちがこみ上げてきたのか、あるいは、これまでのいろんなことが思い出されて、きっと胸が熱くなられたのでしょう。
 そういうお世話になった人たちのおかげで、その卒業証書を手にすることが出来たのだということを、どうか忘れないでください。
 今日は、家に帰ったら、まず、お父さん、お母さん、あるいは、お世話になった家族の方に、その卒業証書を一番に見せてください。
 そして、
 『卒業出来ました。ありがとうございました』
と、感謝の気持ちをあらわして欲しいと思います」

  ●夢を持って前に進もう

 「ふたつめは、『卒業というのは、次の新しい人生のスタートだ』ということです。
 『夢を持って、羽ばたいて欲しい』
 去年の夏のアテネオリンピックでは、日本の選手たちが大活躍をしました。
 目標を持って努力した若い人たちの笑顔や涙は、私たちに感動を与えてくれました。
 今も、サッカーや野球、ゴルフや卓球など若い選手が頑張っています。
 スポーツだけでなく、音楽や演劇、文学界、政治や経済の世界でも若い人たちが活躍する時代になりました。
 夢を持つことです。目標を持ってそのために一歩一歩、着実に努力を積み重ねることです。
 目標を持たない人は、努力しません。
 卒業という、新しい人生の出発点に立った皆さんは、もう一度、自分のこれからの人生の夢を、目標をしっかりと持ってください。
 皆さんの輝かしい、幸せな未来を祈ります」

 昨年も、一昨年も、「教育委員会・式辞」の巻紙は、広げられることもなく演台に置かれたままだった。
 今年もきっと、ここに書いたようなことを、卒業生たちの顔を見ながら語りかけることになるのだろう。
 「挨拶」というのは、相手の表情を見て行わないと、どうも、心がこもった気がしないからである。
 それにしても、国旗や国歌をめぐってギクシャクしていた昔のことが嘘のように思われる。
 竹にも節があるように、子どもたちの人生にとって卒業式が大きな節となり、強く生きる節目を築く意義ある行事となって欲しい。


著者経歴
 元大阪府堺市教育長
 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
 元文部省教育課程審議会委員

お詫びと訂正
  「日文の教育情報No.19」に誤字がありましたことをお詫びいたします。 
  ×誤  国旗と国家をめぐって・・・ 
  ○正  国旗と国歌をめぐって・・・ 


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