日文の教育情報 No.20

平成17年4月 発行

 

緊急課題としての危機管理

東京女子体育大学理事
言語教育文化研究所代表理事

 尾木和英

  ●学校における深刻な事件の発生

 平和であるべき学校という場において、またまた痛ましい事件が発生した。平成17年2月14日、大阪府寝屋川の小学校に同校卒業生の少年が包丁を持って侵入し、三人の教職員を次々と刺すという事件が発生したのである。

 このところ各地で発生している侵入者による事件、あるいは子どもにかかわる深刻な事件が思い起こされる。表面化しなかったものも含めると、全国各地で子どもを巻き込む事故・事件が多数発生している。本来学校は子どもが活発に活動する場である。しかしその学校で、従来考えられなかったような形で、外部者により、また子どもたちによっても事件が引き起こされている。学校はいまや聖域ではなくなったといえよう。

 こうした状況の背後にある問題は複雑である。若年の犯罪者だけでなく、学校で重大な事件を引き起こす子どもに潜在する心理の解明が急がれる。個々のケースについて、事件の発生にいたった動機を明らかにすることも求められる。学校の地域社会に占める位置づけについても検討しなくてはならない。

 そうした多角的な検討は重要である。しかし、その結果を待って安全対策などとは言っておられない。いま、各学校が、この現実に対しとにかく子どもたちを守る、できる限りの安全対策を講じることが当面する緊急課題になっている。

  ●緊急対応と基本の徹底

 難問であることは確かである。自校の卒業生までを対象に加えた危機管理であるから、万全の対策は簡単には立てられまい。しかし、だからといって、不安感をそのままにすることは許されない。危機管理の基本を徹底することによって足元を固め、その上で関係者からの知恵も集め、自校においてでき得る限りの対策を講じることがいま求められている。

 平成16年1月には文部科学省が「学校安全緊急アピール」を発した。ここには学校の具体的取り組みの留意点や地域社会との連携に関する内容など、安全対策に関する基本事項が示されている。まずはこうした情報を集め、先導的な事例などを参考にして、自校のこれまでの取り組みを見直すことが求められる。

 各学校においては、最近、校舎への出入口の限定、オートロック管理の導入、防犯訓練強化、家庭・地域との連携による防犯体制確立など様々な対策を講じている。また、区市の教育委員会によっては、警官の校内巡回要請や民間警備員の配置検討なども行っている。家庭や地域と一体になり、関係機関とも密接な連携を図って対策を交流しあい、安全確保の取り組みを強化することが当面の課題といえよう。そのことと同時に見直すことが求められるのが、基本的な危機管理体制の見直しである。

 学校において発生する事故については、次のように整理して捉えることができる。

(1)主として学校内部の要因で発生する事故
 ア 授業中や学校行事関連、学校内外での問題行動など、子どもにかかわる事故
 イ 教職員の指導、各種管理等にかかわる事故
 ウ 施設・設備、文書等の整備や管理にかかわる事故

(2)学校以外の要因による事故等
 ア 地震、風水害、近隣で発生した火災など
 イ 伝染病、食中毒、地域での交通事故など
 ウ 盗難、誘拐、闖入者による犯罪

 学校としてはこうした整理に基づき、不測の事態、緊急の場合も想定して、担当者を適切に校務分掌に位置づけるとともに、組織的な対応に関する手引書の作成、共通理解の徹底を図ることが求められる。

  ●求められる組織的な対応

 各学校における危機管理については、次の三つのことを意識して、その対応を整備することが求められる。

(1)事故発生以前の対応 
 学校で発生することのあり得る事故について予測し、未然防止のための対策を立てる。校内担当者の異動がありうるから、対応実践のマニュアルの見直しや、担当者の打ち合わせの機会を設定するなどの配慮が必要になる。

(2)事故発生に際しての対応
 突発の事故に動揺し、必要な対応が落ちることがないとはいえない。迅速な問題解決と、被害を最小限とするため、組織の整備と事前の対策について留意したい。

(3)終結後の対応
 事故や事件が解決すると一段落と考えがちである。しかし、校内の危機管理体制という意味では、その事故対応から得た教訓を生かしてその対応に関する事後指導を行い、あるいは対応組織の見直しなどを行うことが重要である。

 危機管理体制の強化とともに重要なのが子どもに対する安全教育である。各学校では、(1)日常生活における事故の未然防止と安全な行動など生活レベルの安全教育、(2)登下校における安全や交通ルールの遵守を中心とする交通安全教育、(3)災害発生時の危険に関する理解と適切な対応に関する安全教育、を教育計画に位置づけ、指導の充実を図ることが欠かせない。

 安全教育の機会としては、学校行事に位置づけての各種訓練、教科等や学級における指導、児童・生徒会関連の活動の機会などがある。こうした指導・活動を関連づけ、全体計画の下に効率的に展開する。そのためにも、校内研修を適切に位置づけ、教職員の意識の向上を図ることが求められる。


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