ある公立小学校でのこと。
朝の集団登校の時間に遅れてしまった姉と弟が、駆け足で学校へ急いでいた。
一台の乗用車が、スーと二人に近づいてきて止まった。
車の中から、30代のおっちゃんが声をかけてきた。
「おっちゃんなあ、あんたらのお母さんの友だちやねん。さっき、お母さんに、『朝ごはん一緒に食べよ、喫茶店の
モーニングいこか』って電話したら、
『今、うちの子どもらが遅刻しそうになって、家を出たとこや、学校に向かって走っている二人を、先に学校まで
送ったって!』って、お母さんが頼んできたから、追いかけてきたんやで、さあ、早よ乗り! 学校まで送ったげる」
6年生のお姉ちゃんは、一瞬、迷ったが、
「知らない人に声をかけられても、車には絶対乗ってはいけません」
と日頃から、学校で指導を受けていたことを思い出して、近くのお店に弟の手を引っ張って飛び込んだ。
お店の人が学校へ電話してくれた。
教頭先生が、お店にかけつけ事情を聞いて家に電話をかけた。
お母さんからは、
「そんなおっちゃん知らん。そんなこと頼んでない」
という返事。
あとで、お母さんは、
「姉と弟の二人で行かせてよかった・・・。弟だけだったら『おっちゃん、おおきに』と言って、乗ってるわ。今頃、どこかへ連れて行かれてるところや」
と、教頭先生に語っている。
話を聞いて、私も、
「自分が小学生だったら、完全に信用して乗せてもらってるやろな」
と思って、背筋が寒くなる思いがした。
子どもたちには、こういう“具体例”を示して注意を喚起しておかないと、一般的な注意だけだと巧妙な誘いに乗
せられてしまいそうである。
夏休みというのは、大人も子どもも解放感から危機意識が薄れがちになりやすい。
地域や学校によっては、何ごとも起こらない落ち着いたところも多いだろう。
しかし、車社会、インターネット社会になった今日では、都市部も農村部も垣根がなくなった。農村部でも何が起こ
るかわからない。
「まさか、うちの校区では」
という心のすきまが危ない。
危機意識のないところで危機は発生する。
学校の危機とは何か。
学校の危機とは、まず学校の主人公である児童・生徒が危機に陥ることと、考えるべきである。
子どもの危機を整理してみる。
・子どもと教職員との間で発生しやすい危機
-体罰、セクハラ、部活動での事故、プール事故、教員と生徒の不純交際、ひいき、など。
・子どもと子どもとの間で発生しやすい危機
-いじめ、けんか、暴力事件、不登校、かつあげ、ゆすり、たかり、など。
・子どもと保護者との間で発生しやすい危機機
-虐待、ネグレクト、家出、金銭の無断使用、親子げんか、不登校、など。
・子どもと地域との間で発生しやすい危機
-誘拐、交通事故、水の事故、深夜徘徊、万引き、不良交友、暴走行為、など。
こういうふうに整理していくと、限りなく心配なことが出てくる。
夏休みの前に、もう一度、児童・生徒の実態を洗い直して、子どもの危機が発生しないように、対策を講じておきたい。
その上で、学校だけでなく、地区別の懇談会や保護者懇談会など、学校、家庭、地域の連携が、夏休みこそ強く求められる。