日文の教育情報 No.23

平成17年7月 発行

 

夏休み-子どもが危ない-

園田学園女子大学 教授

  野口克海

  ●実際にあった怖い話

 ある公立小学校でのこと。
 朝の集団登校の時間に遅れてしまった姉と弟が、駆け足で学校へ急いでいた。
 一台の乗用車が、スーと二人に近づいてきて止まった。
 車の中から、30代のおっちゃんが声をかけてきた。
 「おっちゃんなあ、あんたらのお母さんの友だちやねん。さっき、お母さんに、『朝ごはん一緒に食べよ、喫茶店の モーニングいこか』って電話したら、
 『今、うちの子どもらが遅刻しそうになって、家を出たとこや、学校に向かって走っている二人を、先に学校まで 送ったって!』って、お母さんが頼んできたから、追いかけてきたんやで、さあ、早よ乗り! 学校まで送ったげる」

  6年生のお姉ちゃんは、一瞬、迷ったが、
 「知らない人に声をかけられても、車には絶対乗ってはいけません」
と日頃から、学校で指導を受けていたことを思い出して、近くのお店に弟の手を引っ張って飛び込んだ。
 お店の人が学校へ電話してくれた。
 教頭先生が、お店にかけつけ事情を聞いて家に電話をかけた。
 お母さんからは、
 「そんなおっちゃん知らん。そんなこと頼んでない」
という返事。
 あとで、お母さんは、
 「姉と弟の二人で行かせてよかった・・・。弟だけだったら『おっちゃん、おおきに』と言って、乗ってるわ。今頃、どこかへ連れて行かれてるところや」
と、教頭先生に語っている。
 話を聞いて、私も、
 「自分が小学生だったら、完全に信用して乗せてもらってるやろな」
と思って、背筋が寒くなる思いがした。

 子どもたちには、こういう“具体例”を示して注意を喚起しておかないと、一般的な注意だけだと巧妙な誘いに乗 せられてしまいそうである。

  ●夏休みが近づいてきた

 夏休みというのは、大人も子どもも解放感から危機意識が薄れがちになりやすい。
 地域や学校によっては、何ごとも起こらない落ち着いたところも多いだろう。
 しかし、車社会、インターネット社会になった今日では、都市部も農村部も垣根がなくなった。農村部でも何が起こ るかわからない。
 「まさか、うちの校区では」
という心のすきまが危ない。
 危機意識のないところで危機は発生する。

 学校の危機とは何か。
 学校の危機とは、まず学校の主人公である児童・生徒が危機に陥ることと、考えるべきである。
 子どもの危機を整理してみる。

・子どもと教職員との間で発生しやすい危機
 -体罰、セクハラ、部活動での事故、プール事故、教員と生徒の不純交際、ひいき、など。
・子どもと子どもとの間で発生しやすい危機
 -いじめ、けんか、暴力事件、不登校、かつあげ、ゆすり、たかり、など。
・子どもと保護者との間で発生しやすい危機機
 -虐待、ネグレクト、家出、金銭の無断使用、親子げんか、不登校、など。
・子どもと地域との間で発生しやすい危機
 -誘拐、交通事故、水の事故、深夜徘徊、万引き、不良交友、暴走行為、など。

 こういうふうに整理していくと、限りなく心配なことが出てくる。
 夏休みの前に、もう一度、児童・生徒の実態を洗い直して、子どもの危機が発生しないように、対策を講じておきたい。
 その上で、学校だけでなく、地区別の懇談会や保護者懇談会など、学校、家庭、地域の連携が、夏休みこそ強く求められる。


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