日文の教育情報 No.28

平成17年12月 発行

 

子どもと教師を元気にさせる 「少人数学級」

山形大学客員教授  長南博昭

  ●有識者会議では、制度化よりも支援拡充へ

 今回の中央教育審議会は、「義務教育特別部会」を設置して、義務教育が抱えている諸問題について調査審議している。
 「教育情報24号」で提起した「学級編制基準の見直し」について、専門的な観点から検討の要請を受けていた有識者会議は、「今後の学級編制及び教職員配置について」の中間報告をまとめた。
 具体的な検討の過程では、
◇ 学力結果を見ると、少人数学級の方が結果がよい。少人数学級の効果は、定性的な効果がある。
◇ これまで、日本の教育は現場の情熱によって成果を上げてきた。安上がりで学校をやっていこうという発想は、捨てるべきである。
という前進的な考えが出されたにもかかわらず、制度化は見送られた形になってしまった。
 中間報告では、全国一律に学級編制基準を35人程度に引き下げるよりも、現行の標準を維持しながら、地方自治体の独自の判断で、習熟度別指導などの少人数指導も可能になる支援拡充策を提言している。

  ●すでに出ている「少人数学級編制」の効果

 山形県では、平成14年度から小学校の全学年に、1学級21~33人で編成する「少人数学級編制」を導入した。いわゆる「教育山形さんさんプラン」である。
 プラン実施1年後からその効果について調査し、少人数学級の《三大効果》として、すでに報告されている。

【不登校】
13年度
14年度
15年度
全 県
0.308
0.272
0.240
該当校
0.324
0.255
0.248
* 小学校3年生を対象にした追跡調査であり、数字は、出現率(%)を表している。
【欠席日数】
13年度
14年度
15年度
5学年
4.0
3.5
3.0
4学年
4.0
3.4
3.0
3学年
4.3
3.4
2.9
2学年
3.5
2.9
1学年
3.1
※ 数字は、児童一人当たりの年間欠席日数である。
【学力】
13年度
14年度
15年度
国語
50.5
53.0
53.3
算数
51.7
53.3
53.9
※ 標準学力検査(NRT)による小学校3年生の追跡調査の結果であり、
数字は、学力偏差値である。
〔山形県教育庁義務教育課の調査による〕

以上の結果からも、少人数学級の効果は具体的にあがっていると言える。

  ●「効力感」を高める少人数学級

 山形県では、少人数学級の実施によって、いろいろな変化が起きた。子どもたちや学校が元気になったことはもちろんであるが、保護者や県民の教育に対する意識・関心が高まったことである。「教育山形さんさんプラン」を知らない人が、いないくらい全県に浸透している。また、学校の授業参観に出席する保護者が増えていることからも、学校や教育に対する意識・関心が高まっている。子どもたちへのアンケートでは、
◇ 「友達が増えた」
◇ 「みんなで遊べるようになった」
◇ 「学校が楽しくなった」
◇ 「勉強が分かるようになった」
という声が高い割合で出ている。子どもたちの「がんばろう!」という気持ちが高まっており、元気になっている。
 一方、教師は、一学級当たりの児童数が26~28名と学級規模が縮小するため、40人学級では、自分の意図した指導をうまく展開できなかったことが、少人数学級(30人程度)では「できる」という《効力感》を味わっている。この《効力感》が、そのあとの指導の自信につながり、さらに、きめ細かな指導や授業改善に対する意欲が高まる。

  ●「教育論」を優先させた検討を

 先日、「第3回全国少人数教育研究会」が、山形県米沢市で開催された。全国から400人を超す参加者で、大変な賑わいであった。公開された授業で、子どもたちの生き生きした笑顔と教師の明るい表情が印象的であった。
 全国一律に「少人数学級」を実現するには、教員定数の 増加が約10万人にもなり、それに必要な給与額が約8,000億円、そして、実施に伴って不足する教室の増設費などを合わせると、1兆円を超える膨大な財政負担が生じてくる。
 しかし、「少人数学級編制」の実施によって、その効果は、子どもにも教師にも現れてくる。将来の日本を背負って生きる子どもたち一人一人に、しっかりした学力を身につけさせるためにも、導入・実施できるような制度や枠組みを引き続き検討・整備していく必要がある。


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