No.30 平成18年2月 発行

学校改善に関するPDCA

尾木 和英
東京女子体育大学名誉教授
言語教育文化研究所代表理事

●進められる義務教育の構造改革

平成17年10月26日に今後の義務教育の方向を示す、中央教育審議会答申が公表された。今後、様々な形でその実現が図られることになろうが、基本的な理念・内容については、関係機関、学校が共に理解を深めておくことが求められよう。

「国は、その責務として、義務教育の根幹を保障し、国家・社会の存立基盤がいささかも揺らぐことのないようにしなければならない」という基本理念に基づき、学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化し、それを通じて、子ども達の「人間力」を豊かに育てる、新しい義務教育の姿が示されている。

今後、各学校においては、それぞれの地域、学校の実態に応じて積極的に教育活動の改善・充実を推進することになるが、その際に特に重視したいのが、公開と評価に関する創意を生かした実践である。

公開・評価を重視するのには、理由がある。学校の取り組みに対して、成果が問われるようになり、子ども、保護者、地域の期待に応えるためには教育活動に関して透明性を高くし、学校、家庭、地域の連携協力によって共に新しい教育活動を作り上げることが強く求められるようになったからである。先の答申でも、義務教育の質の保証・向上に関して、「学校は、自主性・自律性の確立のため、権限と責任を持つとともに、保護者・住民の参画と評価で透明性を高め説明責任を果たすシステムを確立する」と述べられている。

●PDCAを重視する指導改善

私が属するカリキュラムに関する研究会は、小・中・高・大学の教員、行政、研究機関の職員を会員とし、学校教育の当面する課題を多角的に研究してそれぞれの実践に生かすというユニークな研究団体であるが、過日、その例会でPDCAが話題になった。参加会員から、それぞれの所属での取り組みに関して報告があった後、それぞれの目標を効果的に実現するためには、学校経営、教育課程、指導の展開に関して絶えず見直し、改善を図っていくことが重要であり、その見直し、改善の仕組みをどう作り上げていくかが課題だ、ということになった。そこで、取り上げられたのがPDCAだったのである。

先ず論議の集中したのがPlan(計画)Do(実施)の後のCheck(評価)をどう効果的に位置付けるか、ということであった。その議論を詳しく紹介することはできないが、いかに組織的に行うか、全教職員が実践の結果と成果の説明責任を意識できるかどうかが極めて重要である、という点で意見が一致した。

●成果の公表への意識

従来、学校評価に関しては、校務分掌ごとの年度末評価として定められた形で行うことが多く、経営に関する評価と教育課程・学習指導の評価との間で乖離が生じたり、説明責任の意識が薄いために開かれた取り組みへの機能を果たし得なかったりする場合がないとは言えなかった。

これからの時代の学校教育を実現するためには、実践に対する評価への認識を新たにすることが大切である。

先ずは自校の独自性や特色ある教育活動のねらいに関して十分な共通理解を図り、自己点検・自己評価の機能を強化する。その上で、学校や教師として効果的な計画を立て、何をもって「成果」として公表できるか、全校体制を整えるのである。その際に重要になるのが、カリキュラム・デザインの重視ということである。例えば、確かな学力を身につけさせ、社会性や自己実現能力を育てるために、具体的にどのような教育活動を組織するか、全教職員の創意を集め、子どもや保護者、地域社会の期待に応えることが求められる。

次に問われるのが、評価の結果をAction(更新)にどう生かすか、ということである。

一口に、次の実践に生かすといっても、実践の内容、評価の結果や時期によって、生かし方は様々であろう。そこで考えられなくてはならないのが、1)結果のフィードバックのための組織の工夫、2)個々の教師の活動意欲に働きかけるための工夫、3)協働での取り組みの意欲に働きかけるための工夫、4)指導組織の改善に結びつけるための工夫、である。

●Actionの捉え直し

私の属する研究会では、PDCAの「A」=Actionは捉え直しが必要かもしれないということになった。PDCAの「A」については更新と捉えるのが一般的であるが、Adjust(調整)と捉えることが適当な場合があるのではないか、というのがその場の話であった。

例えば、実践した教育活動について公開し、外部評価を導入したとしよう。そこでの評価のレベルは様々であろう。基本計画に関する評価、運営組織に関する評価、さらには具体的な活動に関する評価が中心になる場合もあろう。そこでは計画そのものの見直しではなく、部分的な手直し、次の活動の調整が求められるという場合もあろう。きめ細かな改善を織り込むサイクルを考えることが必要ではないかという考えである。

とすると、PDCAの後に更に評価を位置付け、改善された取り組みに関する評価を生かし、これを計画や次の取り組みに生かすというマネジメントサイクルが効果的という考えも成立することになる。

点検と改善のための働きかけについては、年度末の学校評価のように一定の時期でとらえることが有効という場合もあろう。だが現在進めている諸活動を効果的なものにするためには、点検・評価をできるだけきめ細かなものにして教育の成果と課題を的確に捉え、次の指導改善に生かすという発想を持つことが求められている。また、その結果について保護者や地域住民に対しても理解を求め、説明責任を果たすことによって共に学校づくりを進める体制を確立することが重要になっている。