No.36 平成18年8月 発行

幼・小・中連携の4つの目的

野口 克海
園田学園女子大学 教授

●第1は段差の解消

幼稚園の年長さん(5歳児)はとてもしっかりしている。年少さん(4歳児)に対して、すっかりお兄さんお姉さん気取りである。
 幼稚園の授業参観に行くと、「わずか1歳の違いで、こんなにも成長するのか」と感心してしまうほど、4歳児と5歳児ではまるで違って見える。
 先生たちも、それを上手に使って、「さあー、年長さんたちにお願いします。年少さんの手をしっかりつないであげて下さいねェー。」と言って散歩に出かけたりする。
 5歳児は先生に頼まれると責任を感じて4歳児の手をやさしく握ってリードしている。
 ところが、その5歳児が次の年に小学校に入学すると赤ちゃん扱いになる。
 小学校の先生たちがニコニコして呼びかける。「上級生の皆さん、可愛い可愛い1年生の手をつないで、学校探検につれていってあげて下さーい。」
 まだある。幼稚園の良い子と心配な子が小学校に入学すると逆転することがある。幼稚園の先生が、「Aちゃんは元気で活発な子、皆をリードしてくれる良い子です。Bちゃんはおとなしすぎて、集団の中に入れず、じっとしていることが多いです。」と小学校に引き継いでいるのに、半年後には「Aちゃんは45分間、落ち着いて座ってられず、授業中に立ち歩くなどこまった子。Bちゃんは授業をしっかり聞いていてとても良い子」になったりする。
 幼稚園と小学校が連携できていないことが多い。
 小学校と中学校の段差はもっとひどい。小学6年生は中学校に上がることに不安や心配だらけである。
 「先生が恐そう、先輩にいじめられないか、勉強が急にむずかしくなるのでは、部活でシゴかれないか、校則が厳しくて嫌だ。」
 実際、全国統計でも小6の不登校生約7,600人が中1で23,000人と3倍に増えることなど、小と中の段差は深刻である。校種間連携や小中一貫教育のねらいは、この段差を解消することにあることは言うまでもない。

●第2は学力向上

幼稚園と小学校とが、「生活科」などの教科を通じて、「遊び」から「学び」にスムーズに移行できているかどうかは、小学校の先生たちが幼稚園の授業の様子をよく見て、知っているかどうかにかかっていると言っても過言ではない。また、総合的な学習の時間でも小学校と中学校が同じようなことを繰り返していたり、小学校の英語学習の成果が中学校にうまく引き継がれていなかったりする現実も見うけられる。教科学習でも、小中合同の教科会議をもつことによって、例えば小学校で扱う聖徳太子と中学の歴史に出てくる聖徳太子とをどう分担するのか、無駄をはぶいて学力向上を図る課題は山ほどある。

ところが、小中連携といっても行事や生徒会・児童会の交流程度で、この肝心の「学力向上」の面で成果を上げている例はまだまだ少ないのが実情ではないか。

●第3は地域に根ざす

幼・小・中の連携や小中一貫教育で、そのねらいとして、ぜひおさえて欲しいのが、「地域に根ざす」という観点である。
 私学の小中一貫校や、公立でも近年一貫校が生まれているが、エリート養成の早期教育であったり、学力向上一辺倒のものが多い。「地域の子どもは地域で育てる」という大切なことが抜けている。
 0歳から15歳まで、義務教育終了までは「子どもは地域の宝」として、学校と地域が一緒になって守り育てていくことが、今の時代、特に求められている。
 ふるさとの無い、根なし草の子どもにしてはいけない。
 子どもたちを一人に孤立させてはいけない。
 子ども会や地域のサークル活動、異年齢の交流、保護者やお年寄りなどとの交流、祭りや地域の行事など、地域をあげての子育ての取り組みの中に、幼・小・中の連携を位置づけることが大切である。
 今日、子どもたちに「生きる力」をつけるには、学校だけでは限界がある。
 幼・小・中の縦のつながりをしっかりつくり、家庭・地域・学校という横のつながりを模索することによって初めて効果を期待することができる。
 縦と横のつながりの中心に学校があることを、学校は自覚すべきである。

●第4は教員の意識を変える

 私たち教員は「世間が狭い」。幼稚園には幼稚園の文化がある。小学校と中学校でも全然違う文化がある。
 そして教員はそれぞれの小さな文化の中にどっぷりと浸かって「こんなもんや」と思っている。
 校種間連携を積極的に進めることによってお互いの文化の良い点を学び合うことができる。
 教育は人なりである。案外この第4の目的が一番期待されることかもしれない。

著者経歴

  • 元大阪府堺市教育長
  • 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
  • 元文部省教育課程審議会委員