No.41 平成19年1月 発行

組織は「目標」を持つとき動きだす

野口 克海
園田学園女子大学 教授

●これまでどおり

私立中学校・高等学校の校長になって、1・2学期が終わった。3学期ももうすぐ終わる。
 私立の学校の教職員には、原則的に転勤がない。メンバーがほぼ固定化している。この人はこういう仕事をする人、仕事をしない人というのも決まっている。年間の学校カレンダーも実に詳細に決められている。何もかもが、ほぼ出来上がっているのである。
 出来上がっている学校には成長がない。
 着任した1学期には、「生徒が笑顔で来る学校、学校へ来るのが楽しい!という学校づくりをめざそう」と呼びかけた。
 そして、点検、検証のため1学期末に、「学校生活の満足度調査(学校評価)」を実施した。
 この調査結果を踏まえ、8月31日の職員会議では、生徒の満足度を高める一番のポイントは、「授業がよく分かる、楽しい授業」ということと、「仲良しのクラス、楽しい学級づくり」の二点を2学期の目標として頑張って欲しいと訴えた。
 そして、その点検、検証のため11月に、「授業評価アンケート」を全ての授業で実施した。
 これまで、この学校にはなかった「学校評価」や「授業評価」が実施されるようになった。その結果を分析する学年会議や職員会議がもたれた。
 この二つの調査の生徒たちの評価は、実に厳しいものだった。生徒たちから、これだけ厳しく評価されたことは大きなショックであるはずだった。校長の私には“震度7”を超える衝撃だった。
 しかし、出来上がっている学校という城の壁はぶ厚い。この先生の授業はこんなもの、あの先生の学級経営はあんなものという評価は、何十年も前から決まっているのである。かろうじて、評価の一番低かった社会科が教科で授業参観しあいながら、授業改善に取り組もうと言いだしたぐらいか。
 教員の間では、“震度1”程度の振動にしか波紋が広がらなかった。学校は、何ごともなかったように、これまでどおりの時間が流れている。

●こっち向いて進もう!

「これまでどおり」「例年どおり」という体質は、公立の学校でもよく似たものである。毎年、同じような行事やスケジュールを繰り返していく学校という組織の中にいる教職員が、前例主義に陥るのは、私立、公立を問わず、ある程度やむを得ないことかも知れない。

しかし、「子どもたちのために、もっと良い学校」をめざさなければならないことも、共通している。
 この出来上がってしまっているぶ厚い壁、「この学校は、こんなもんや」「あの先生は、ああいう先生や」「この行事は、毎年こうしている」という意識を変えさせなければならない。
 幸い、「教育はチームでするもの」という体質がある。チームには、チームのリーダーがいる。教職員全体の意識改革を一度に求めるのは無理がある。しかし、チームのリーダーたちとしっかりと話し合い、意志統一を図ることは可能である。
 少し時期が早いかも知れないが、2学期最後の職員会議で、2007(平成19)年度の学校のリーダー(学年主任以上)の人事を発表した。
 セブン・イレブンと呼ばれている先生。朝は7時前から夜は11時頃まで、生徒募集、進路指導、学校の企画運営、部活動、授業研究、組合活動まで、あらゆることを率先してやり、誰が見ても一番よく働いている若い先生を、来年度の「教頭」にすると発表した。
 現在の教頭は、副校長として外向きに校長の代行を勤めると共に、もともとの専門である生徒指導面の総括を兼ねると、職務内容を明確にして副校長制をしいた。中学部の主任や高校の学年主任も発表し、ただちに来年度の準備に取りかかるように指示した。
 冬休み中に、リーダー会議が開かれている。1月、2月には、来年度の組織マネジメントだけでなく、学校教育目標からその具現化を図るための各学年、分掌ごとの教育活動の具体的な進め方について話し合いが続く。
 まだ言ってないが、近いうちに校長の私も参加したスクール・リーダー合宿を行い、それこそ徹夜で、来年度からの学校経営についてとことん討議し、意志統一を図るつもりでいる。
 学校は組織で動く、組織にはリーダーがいる。リーダーたちがしっかりと意志統一をして、「こっち向いて進もう!」と引っぱりだしたら、学校は変わるかもしれない。
学校教育目標の旗のもとに……。

著者経歴

  • 元大阪府堺市教育長
  • 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
  • 元文部省教育課程審議会委員