No.42 平成19年2月 発行

「地域型」小・中一貫教育の願い
-宮崎県日向市の取り組みより-

宮副 正克
日向市教育委員会教育長

周知の通り、国は平成14年6月に「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」を閣議決定したことで、構造改革特区による規制緩和と分権の一層の加速化が、全国的に広がりをみている。このことは、産業界など「個性ある地域の発展」と「知恵と工夫による経済の活性化」を主軸としながらも、教育界にも適用範囲が及んだことは、極めて画期的なことと考えている。
 加えて、先の中央教育審議会答申において、義務教育に関する制度の見直しとして「義務教育学校」を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するための仕組みに関する検討が必要であることが明記されたところでもある。
 本市教育委員会では、このような国の動向を千載一遇の好機受け止め、特例措置による規制緩和を有効に活用し、本市の実態が抱える深刻な教育的課題に対処したいと考えたところである。
 本市は、平成17年7月に内閣府から構造改革特区の認定を受け、教育特区として全市を対象とした小・中一貫教育を進めることとしたのである。
 現在、地方都市である本市でも、少子化傾向とともに、地域によっては過疎化現象が顕著となり、その上、市町村合併による広域化が同時進行している現状にある。ことに、学校と地域の依存関係は深く、学校が、地域が、「元気」になる願いとそれに応える挑戦はこれからも続くことになる。
 本市は、平成9年度から「美々津教育ネットワーク」を形成し、学社融合の教育を県内外に発信した経緯を有している。
 今回の小・中一貫教育の構想に対する行政、学校、保護者、地域とのコンセンサスを共有できたのも、今日までの学社融合での協調関係が大きく作用している。また、平成1 3年度からの小・中合同授業や学校行事、平成1 4年度からの兼務発令による小・中相互交流授業(算数・数学、英語活動)や中学校間の臨免解消(音楽、美術、技術等)に向けた交流授業などの実施と成果が後押ししたことも教育特区のきっかけとなっている。

●小・中一貫教育への要因

  • 児童・生徒数の減少による生活集団、学習集団の再構築の必要性。
  • 少子化、核家族化による兄弟・姉妹関係の希薄化の進行。
  • 6・3制の弾力化を図り、実態に即した学年構成と理解度に応じた発達段階を重視した教育システムの必要性。
  • 不登校児童生徒の増加や学力低下傾向に対処する教育情報と指導の一本化の必要性。
  • 教育指導の連続性、接続性による個に応じたきめ細かな教育の実現。
  • 学校、地域社会の活力の再現と教職員の意識改革。

●小・中一貫教育の構想

  • 9か年を見通した教育課程の編成と教育経営の推進。
  • 教科指導によっては、4・3・2制による生活集団、学習集団の再構築と児童・生徒の実態に即した有効な学習の展開。
  • 教科担任制や選択教科(小5以上)の導入による専門性や個性教育の重視。
  • 英会話科(小1から)新設による国際感覚豊な人材の育成(細島国際貿易港を背景とする地域性)。~日向高校外国語学科の開設、宮崎国際大学との協力協定による支援体制、ホノルル市姉妹校との交流など~
  • ふるさとの時間の新設による将来の市民意識の高揚と郷土愛の育成。など

以上、羅列的・概括的に述べてきたが、市全域にある学校は、それぞれに地理的、立地条件の異なる実態とハード面の財政事情が実現へのハードルともなっている。平成1 8年4月に開校した平岩小中学校(呼称)は、ソフト面と合わせハード面でも校舎の耐震診断結果のタイミングと相まった形で、併置型の小・中一貫校の誕生となった。現在、隣接する大規模小・中学校間に、連絡通路を新設し、併設型の開校を進めている。他の学校については、連携型として主にソフト面の充実に着手しているところである。
 「中国の孫子の言葉に『一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法』とある。成功の鍵は、道=理念、天=タイミング、地=マーケティング、将=リーダー、法=組織のシステムにある。」(徳原英哲「ビジネスフォーラム神戸2 1」のHPより引用)これからの地方分権に向けての体力づくりに欠かせない「座右の銘」として肝に銘じている次第である。