No.48 平成19年7月(夏期臨時号) 発行

いじめを生まない学級づくり

尾木 和英
東京女子体育大学名誉教授
言語教育文化研究所代表理事

●学級づくりの基礎基本

いじめにかかわる深刻な事件が後を絶たない。その指導・対応が引き続き学校の緊急課題になっている。
 いじめに関しては、深刻な事態の克服を目指す早期発見、早期指導の対応体制の確立が極めて重要である。しかし、同時にいじめを許さない子どもの育成、特に学級・集団づくりが大きな意味を持つことを確認したい。学級経営の重点は、次のように整理できる。

  1. 学級担任教師の基本的な姿勢として、日常的な話、まなざしを通じて、いじめが人間として絶対に許されないことを徹底する。
  2. 道徳・学級活動などの機会にいじめにかかわる問題を取り上げ、なぜ許されないかを考えさせる。
  3. 学級目標検討等の際に、互いに認め支えあう人間関係、人権や互いの信頼を大切にする学級づくりについて突っ込んだ話し合いをし目標の柱とする。
  4. どのような問題や悩みについても話し、相談できる体制を整える。
  5. 保護者に学級、子どもの状況を伝え、課題の共有により一体になって指導に当たる体制を整える。

●決め手になる子ども理解

子どもたちがどのような生活環境、交友関係の中で活動し、どのような悩みや不安を抱いているか。きめ細かな把握があって、初めて子どもたちの発する様々なサインを鋭く受け止めることができるようになる。
 いじめにかかわりを持つ子どもの発するサインとして、次のようなことに留意したい。

  1. 学級内の諸活動において仲間はずれ、孤立化の感じられる子どもがいないか。
  2. 授業、当番・係活動等の際に特定の子どもに対するからかい、冷やかし、無視などが見られないか。
  3. 授業中に元気がなく、教師と目をあわそうとしない子どもがいないか。

こうした状況が見られたときには、その状況に応じ直ちに適切な指導・対応を行うことが求められる。一斉指導が必要なこともあろうし、学級全体やグループでの話し合い、個別の相談などが求められることもあろう。子どもの発するサインをしっかりと受け止めての迅速かつ効果的な対応が必要になる。

指導・対応に際してはいじめの風土となる学級の雰囲気づくりに留意したい。

学級経営の柱として、信頼関係、認め合い励ましあう人間関係を育てる効果的な活動を設定し、その上に立っていじめを許さない心を育てることが基本である。1年の間には人間関係のゆがみの生じることがある。しかし、子どもたちが主体的にその事態を受け止め、自分たちが抱える課題を踏まえて、いじめを生まない学級づくりに取り組むことが大切である。

●いじめを生まない指導・対応の実際

学級経営を進める中で重要になるのは次の三つである。

  1. 担任教師はみんなの相談を受け止め、親身になっての指導・対応を徹底する。
  2. いじめは、「ふざけだよ」などということの許されない行為であることを徹底する。
  3. みんなで、いじめ、からかい、無視などの起こることのない学級を作ることを徹底する。

学級を構成する子どもの意識に働きかけることによって集団の質を変えたい。いじめにかかわる子どもたちは一般的に社会性が未熟で、正しい集団のあり方、成員として守るべきこと、いじめられる子どものつらい心情への共感などができないことが多い。意識形成への着目は、そこに切り込む契機となる。
 仮に、いじめを見て見ぬふりをする子がいるとする。その子どもは概念的にいじめはいけないと知っている。問題は内面化されていないことにある。更に大きな問題は、学校における指導・対応に根深い不信感があり、うっかり行動に出るととんでもないことになるという強い不安感を抱いていることである。したがって、その指導においては、いじめを許さないという意識の内面化と、全校一体になってのいじめ根絶に向けての取組とが求められることになる。
 意識の内面化ということは、そう簡単にできることではない。相談活動、個別指導とともに、道徳や学級での指導機会を工夫し、いじめ問題を取り上げるのが一般的であろう。その方法としては、教師による資料の読み聞かせと働きかけ、学級全体での協議、問題分析のシートを用いての協議、問題解決を目指す話し合い活動、意見発表やブレーン・ストーミングを取り入れた集中討議、アンケートに基づく作文、などが考えられる。
 こうした有効な活動をどう設定するか、学級経営の工夫のしどころといえよう。