No.50 平成19年9月 発行

教育相談体制の重要性

尾木 和英
東京女子体育大学名誉教授
言語教育文化研究所代表理事

●子どもをめぐる状況

社会問題ともなっているいじめの問題、再び重要な課題となっている不登校への対応、多発する事件・事故、家庭の養育力にかかわる問題、特別な支援を必要とする子どもへの対応など、相談的な配慮による、きめ細かな実態把握に基づく適切、かつ効果的な対応が重要な課題になっている。
 いずれの問題にも認識すべき背景があるが、問題行動という側面についていえば、子どもをめぐって次のような状況があることを把握する必要がある。

  1. 体験を通して社会性、自己指導の力を身に付ける機会に乏しくなった。
  2. 生活面、学習面で成就感や自信を獲得することができず、ストレス、閉塞感を感じる子どもが多くなった。
  3. 社会性、対人関係の未熟さが目立つようになり、人間関係上のトラブルを招くことが多くなった。
  4. 強い欲求不満を抱くものが増える一方で自主性・耐性の低下が目立ち、ストレスや不安をコントロールできず、それが問題行動に結びつくようになった。

したがって問題行動への対応を考える場合は個々の子どもの抱える課題、発しているサインを鋭くとらえ、1)温かい学級経営によって人間関係を育てる、2)自己指導力を育てる活動を充実する、などの側面と、3)校内規律の遵守に関する指導、4)全校体制での相談的配慮に基づく効果的な指導、5)家庭・地域・関係機関との連携による対応といった側面の両面から生徒指導の充実を進めることが必要になる。

●求められる相談体制の整備
─報告書「児童生徒の教育相談の充実について」から

子どもの抱える問題が理解されず、そのために指導・対応が適切さを欠くとき、あるいは指導・対応が子どもの抱える不安や悩み、深刻な課題をとらえ切れていないとき亀裂が生じることになる。生徒指導を構想し実施に移す際には、まず的確な子ども理解が重要になる。
 そこで各学校に求められるのは、相談体制の充実である。平成19年7月に「教育相談等に関する調査研究協力者会議(座長尾木和英)」から提出された、報告書「児童生徒の教育相談の充実について」では、「児童生徒の悩みに対して、適切かつ可能な限り迅速に対応し、児童生徒が安心して学習に取り組むことができるよう、教育相談の充実が大切である」と述べられている。
 この報告書は次のように内容が構成されている。

  1. 学校における教育相談の充実について
  2. スクールカウンセラーについて
  3. 学校を支援する体制の充実について

ここでは、様々な悩み、課題を抱える子ども一人一人に対してきめ細かく対応するために、学校とともに多様な専門家の支援による相談体制をつくることが大切、と述べられている。この基本認識に立ってスクールカウンセラーについては、その果たす役割が確認され、配置時間数の増加、小学校への配置の拡大、状況に応じた一層柔軟な活用、スクールカウンセラーのスーパーバイザー設置等の検討が必要とされている。
 また、学校への支援体制については、問題の多様化に対応した関係機関のネットワーク構築やネットワークを生かして学校を支援するサポートシステムの形成が重要であることが述べられている。
 こうした趣旨が生かされるための関係者の取組が、いま強く期待されている。

●子どもの問題の解決を目指して

子どもの生活環境の急激な変化が、子どもの行動と意識に影響を与えている。今後の学校経営、生徒指導の推進に際しては、こうした状況を踏まえ、次の両面を視野に入れ、相談体制の充実を指導推進の柱の一つに据え、開かれた指導の展開を目指すことが求められる。

  1. 子どものよりよい人間形成、自己指導力育成に機能する教育活動の推進。
  2. 子どもの悩み、課題を鋭く受け止める。変化の実態の的確な把握に基づく課題解決。問題行動の未然防止と効果的な対応。

子どもの悩みや不安を早期に解決できるよう働きかけ、同時に自分で目標を立て、遂行し、成し遂げたという満足感を得ることができるよう環境を整える。そのために学校としては特に次のことに留意したい。

  1. 校長及び中核になる教師のリーダーシップが十分に発揮される。
  2. 教職員一体となっての指導・相談体制を確立する。
  3. 的確な実態把握に基づく個別の指導が、全校的な効果的な指導に生かされる。
  4. 学校生活の充実が図られ、自己実現、望ましい人間関係に関する指導が効果的に行われる。
  5. 問題の本質的理解に基づき、学校・家庭・地域、関係機関との連携協力が緊密になされる。