No.52 平成19年11月 発行

たった4点で夜も眠れず―過剰反応はやめよう―

野口 克海
園田学園中学校・高等学校校長
園田学園女子大学 教授

■太平の眠りをさます…

10月26日の朝、庄内空港から大阪空港に向かう機内にいた。客室乗務員からもらった朝刊に目を通していた。
 地方版のページは「秋田県」のものだった。
 「学力調査結果 全国1位!」の見出しの文字が躍っていた。

好成績の理由として、秋田大の教授が、「1学級は20人前後で教育先進国のフィンランドと近く、目が届きやすい。」「自習がきちんと成立し、学級崩壊がほとんどない。勉強に取り組む姿勢が確立している。」「貧富の差が著しく階層化が激しい大都会に比べ、家庭が比較的安定している。」と述べていた。(毎日新聞)
 また、「秋田の子どもは真面目な生活」と題して、「朝食を毎日食べる」、「家の人と学校での出来事について話をする」、「学校のきまり、規則を守っている」、「家で学校の宿題をする」などの項目で全国平均を上まわっていることをあげながら、学力調査の正答率の高さを報じていた。(読売新聞)

大阪空港に着いた。新聞を買い求めた。
 まず最初に目に飛び込んできた見出しは、「大阪 なぜ45番!」(産経新聞)という大きな文字だった。「教育現場に“激震”」という見出しも目に入った。
 知事までコメントしている。
 「大変厳しいものと受けとめている。大阪の教育力強化と学力向上に全力を注ぎたい」と。大阪府の教育長や担当課長の談話も苦しいものだった。

記事を読むと、「都道府県別の結果では、ほとんどの自治体が全国平均に近い成績を収め、大きな格差は見られなかった。」と書かれている。たった4、5点の差で天国と地獄ほど報道に差があるのに驚いた。
 今回の学力調査で全国平均を下まわった沖縄、高知、大阪、北海道などの道府県は大変だ。きっと緊急に市町村教育委員会の教育長さんや担当課長を集めて対策会議を開くのであろう。「学力向上検討委員会」のようなものを立ち上げて、来年に向けた方策の検討に入るのかも知れない。議会からたたかれることは必至だ。
 保護者や市民からも開示請求も含めて様々な要求が出てきて、その対応に追われることになるのだろう。
 本当にご苦労さんなことである。

■新しいものは何もない

文部科学省が公表した学力調査結果の骨子は予想していた以上に、基本的な、当然のことばかりだった。

  • 「知識」及第、「活用」に課題
  • 応用が苦手、記述式に弱い

もともと分かっていたことである。

  • 就学援助を受けている児童
  • 生徒の割合の高い学校の正答率は低い傾向にある。

これも、テストをする前から予想できたことである。

  • 朝食を毎日食べる子どもと全く食べない子どもでは正答率に差がある。
  • 「家の人と学校での出来事について話しをする」、「学校のきまり、規則を守っている」、「家で学校の宿題をする」と答えた子の方がそうでない子よりも正答率が高い傾向がある。

こういうことも、昔から言われてきた。
 約77億円の巨費を投じ全員対象のテストをした成果について、

「文部科学省の担当者は、19日にあった事前記者会見でこう述べた。記者からの『具体的な成果は?』との問いに、『個々の学校で改善に生かしてほしい』と話すだけで言葉を濁した。」と書かれている。(毎日新聞)

新潟県聖籠町の教育長は、「今回の程度の調査なら、全員でなく抽出で十分だったと思う」と述べている。(朝日新聞)

また、学校現場からも「個々の子どもへの指導に生かすように言われて、半年前の結果を示されても、卒業年次の子どもには対策の取りようがない」などの声も上がっている。

■過剰な反応はやめよう

結局、都道府県の順位だけが大きく報道された。
 学力調査は来年もある。今回、下位だった道府県は幸いである。来年はこれ以上下がることはないから。
 今回、上位だった都県は大変だ。来年、下がったら何と言い訳するか考えておかなければならない。
 新聞報道であったように、「指さし」で誤りを教えたり、事前に問題練習をさせたり、成績下位のペーパーを除外したりというようなことにならないようにも気を配らなければならない。
 そういうことは、学力調査への過剰な反応から起こる。極めて冷静に、これまで取り組んできた学力向上の方策をさらに充実させていくための一つの資料として活用するということで十分なのだと思う。

著者経歴

  • 元大阪府堺市教育長
  • 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
  • 元文部省教育課程審議会委員