No.54 臨時号 平成19年12月 発行

「目標達成型」の学校経営

長南 博昭
山形大学地域教育文化学部教授

「校長先生!私は、今日会社を2時間休んで来ました。だから2時間分の時給をもらいたいのですが?」
 これは、小学校の授業参観に来た参加者の一人である父親が、わざわざ校長室を訪れて、本気で言ったことである。
 最近では、「○○先生を辞めさせろ!」とか「訴えてやるぞ!」などと、保護者からの電話やメールによる要求や苦情、いわゆる「クレーム」が多くなっている。
 このようなことは、人の知性や理性、そして、感性、モラルなどが崩れかけていることを示しており、社会の劣化が始まっていると言ってもよい。まさに、学校は、このような管理不能な要因に対しても、的確に対応しなければならない状況に追い込まれている。
 このような状況に的確に対応するためにも、思い切った学校経営改革を進め、もっともっと学校の「マネジメント力」を高める必要があるのではないか。
 岩手県教育委員会では、「教育の品質」を高めるために、全小中学校が「目標達成型」の学校経営に取り組み始めた。一般的に見られる学校経営は、たくさんの目標を掲げ、たくさんの教育活動に取り組んでいる場合が多く、「目標羅列型」の学校経営が主流になっている。
 しかし、これからは、「目標羅列型」ではなく、「マネジメント力」を高める「目標達成型」の学校経営を目指す必要があるのではないか。
 それを実現するための具体的なポイントは、次の3点である。

■(1)「教育目標」を一元化する

どこの学校にも「教育目標」がある。しかし、そのほとんどが「学校の教育目標」ではなく、「学校教育目標」になっている。めざす方向は分かるが、目標達成のための明確な取組が見えない。そして、教育目標としているが、その内容は、「教育の目的」を表現している場合が多い。したがって、学校独自の教育目標、すなわち「学校の教育目標」を掲げている学校は非常に少ない。そのために、「マネジメント力」が効果的に発揮できない状況にある。
 たとえば、よくある教育目標に「かしこく やさしくたくましく」がある。よくあるということは、どこの学校にも当てはまるということではないか。これは教育目標というよりは、教育の目的に近い。このように教育目標が教育目的になっている。すなわち、目標の目的化が目立っている。そのために、目標と現状とのギャップが大きすぎて、取組の絞り込みもむずかしく、検証・評価もあいまいになっている。また、目標達成のための教育活動も、「具体的な~~」としているが、目標と教育活動のつながりが明確でないものが多いのではないか。教育目標と現状のギャップを確実に埋めるために、できれば一元化した目標を設定することが望ましい。

■(2)動く「仕組」をつくる

「学校経営計画」は、教育目標を達成するための「仕組」の一つである。これを「目標羅列型」から「目標達成型」に見直し、「動く仕組」に作り直すことが必要である。その見直しのポイントは、思い切って教育活動を絞り込み、集中的に取り組むことである。特に、小中学校の場合、「しないよりはした方が良い」とか「無いよりはあった方が良い」というような考え方に慣れてしまい、あれにも、これにも取り組んでいる学校が多く、思うような効果につながらない状況にある。
 動く仕組の一つは、学校と家庭が協働する場をつくることである。最近の教育問題の大本は、家庭にある場合が多くなってきた。したがって、学校だけでの努力では、解決不能の状況になっている。学校と家庭が協働する場を意図的につくることが望ましい。そして、それを支援する教育行政の仕組づくりも大事な視点である。

■(3)小さな「PDCA」を機能させる

目標達成型の学校経営は、マネジメント・サイクルがうまく機能するかどうかにかかっている。マネジメントには、年単位の長期的なスパンで回す「大きなサイクル」と月や週単位の短期的なスパンで回す「小さなサイクル」がある。目標が具体的になればなるほど、小さなサイクルが回りやすくなり、効果がより見えやすくなる。そして、小さなPDCAを数多く回すことができれば、子どもたちの状況把握や取組に対する指導の改善が進み、教育効果が目に見えてくるようになる。
 マネジメント・サイクルの最大のポイントは、PDCAが次のサイクルに回るときである。具体的には、「AからPへ」の段階である。次のサイクルに回るときの「AからPへ」の段階で、「続けるもの=継続」と「捨てるもの=修正」を明確に分けることが不可欠の要件である。この区別をしないままに、サイクルを回しても、それはPDCAの空回りであり、マネジメントが機能しているとは言えない。
 目標達成型の学校経営は、一元化された目標と動く仕組、それにマネジメント・サイクルが一体になってはじめて機能する。