No.58 平成20年4月 発行

教育改革で格差社会を改造する

明石要一
千葉大学

■放課後は「自由経済」、学校は「計画経済」

親の経済格差が子どもの学力格差を生む。そして、残念ながら今や経済格差は学力格差だけでなく、体力格差、それから栄養格差をも生むようになっている。
 それはなぜか。「体験量」が格差を生むのである。しかもその「体験量」は学校社会より「放課後の世界」で差が顕著になる。
 学校はよい意味での計画経済である。全国どの学校に行っても「よい教科書」と「よい教師」、それから「よい友達」が保障される。
 また、学校は休み時間と体育の時間、それから部活動を用意し、どの子どもにも体力をつける配慮をしている。
 そして、学校給食はどの子どもにも十分な栄養を提供している。栄養士がカロリー計算して、年間で約200日間給食を提供している。栄養の格差が顕著になるのは給食がなかった40日間の夏休み明けである。
 夏休みに「早寝早起き朝ごはん」の生活リズムをとっていた子どもとそうでない子どもとでは栄養バランスが異なる。長期の休みの不規則な食生活が子どもの栄養バランスを崩す。
 9月1日の全校集会の姿を見てほしい。倒れるかしゃがむ子どもがけっこういる。15分ほどの話に耐え切れないのである。だから、それを知っている賢明な校長は最初から座らせて話を聞かせている。学校給食は夏休みに家庭で生じた栄養格差を是正している。
 学校は意図的に計画的に設計されている。よい意味で規制があり金太郎飴でもある。だから、品質が保証されている。

■「体験量」が格差を生む

学校はどの子どもにも同じ体験をさせ、家庭で生まれる格差を是正しているのである。
 ところが、放課後の世界は自由経済である。子どもの体験量は親の経済的な「差」を直接に受けているのではないか。
 例えば、年収800万円以上の家庭の子どもは夏は海へ行き、冬はスキーに出かける。そして休日は家族みんなで出かける。さらに塾やお稽古に通い、通信教育も受け、豊かな体験をする。文化的資本を身につける機会を多く持つ。

逆に300万円以下の家庭(四割弱いる)の子どもは夏、冬とも親が仕事で忙しいので外に出かけるチャンスが少ない。そして経済的な理由から塾やお稽古も通っていない。放課後は独りで部屋でテレビと漫画、それからテレビゲームをして過ごす。
 経済的に余裕のない子どもの放課後は貧困になりがちである。
 豊かな体験をしていないので文化資本が乏しく、学習レジネスが身についていない。結果として学力が低くなる。
 それから、放課後の行動半径が狭くなっている。外遊びが減り、屋内遊びが主流となっているので体力が身につきにくい。
 また、運動系の部活動に入っている者が中学校で7割、高校で5割をきっている。部活動はユニフォーム、用具代、それから遠征費とかなり経済的な負担が大きい。経済的な余裕がないと辞めざるを得ない。結果として体力格差が生まれる。
 このように親の経済格差が子どもの放課後の体験量の「差」を生む。学校は計画経済なので家庭で生まれる格差を何とか是正できる。しかし放課後は自由経済なので放っておくと格差は拡大する。
 「格差」問題を論じる時、これまでこうした認識は乏しかった。確かに、学校差や学級差はある。学校が持っている教育力や担任の力量によって子どもの学力は異なる。
 しかし、この「差」は鳥瞰図的な視点から見れば小さいものである。自由経済の放課後で生まれる「差」に比べると取るに足らない。
 学校改革はすすめなければならない。と同時に放課後に生まれる「格差」の現実にも目を向けなければならない。
 自由経済の放課後で取り残された家庭や地域の子ども達にも、豊かな体験を保証しなければならない。これは社会のあり方を変える社会改造である。
 今全国各地で様々な機関・団体が放課後子どもプランを行っている。しかし、それは次のミッションを持っていることを忘れてはならない。
 どの地域のどの家庭の子ども達にも豊かな放課後の世界を等しく提供する。それが規制のない家庭や地域で生まれる格差の是正につながり、子どもの未来を切り開くのである。