No.59 平成20年5月 発行
小・中学校の現場に若い先生たちが増えてきた。
団塊の世代の先生たちが大量に学校現場から去っていく。
3年前の4月、JR西日本の電車が一つ手前の駅でオーバーランをして、遅れをとりもどす為にスピードを出しすぎて脱線事故を起こした時の運転手も20代の若者だった。
旧国鉄時代からの国鉄マンには神業のような整備・運転技術をもつ技術者たちがいた。
そういう鉄道マンも団塊の世代としてJRを去っていっている。
オーバーランをすることなく10センチも違わずにプラットホームにピタッと止める技術が継承されていたら、あの事故は起こらなかっただろう。
若い教師が担任する学級で、生徒AとBがケンカをした。
Aが殴ったにぎりこぶしが、Bの顔面に当たり、Bは鼻血を出し、唇も切った。保健室で応急の処置をした。幸い傷は軽く、出血も止まり、担任は病院に連れていくほどではないと判断した。
生徒指導主事も担任に加わって、生徒AとBの指導を相談室で行った。
AとBを教室にもどらせたあと、ベテランの生徒指導主事の先生は担任に、
「今日、放課後、Aを連れてBの家に家庭訪問をし、事情を説明したあと、Aに謝罪させるように」
と指示をした。
次の日、ベテランの先生は少し気になって、
「昨日、家庭訪問はうまくいったか?」
と担任に尋ねた。
「昨日は、行ってません」
と担任は言う。
「Aは、自分は悪くないと言うのです。先に手を出してきたのはBだし、たまたま自分の手がBの顔に当たったけれど、自分は謝る必要がないと、全然反省していないのです。そんな気持ちで謝りに行かせても、相手に気持ちが伝わらないので、今日もう一度、Aによく話をしてから家庭訪問します。」
という返事が返ってきた。
これなどは事後処置と事後指導を混同してしまった例である。
生徒指導主事は、
「あのな! ビールは栓を抜いたらすぐに飲まんとうまくないやろ! そんなもん2日も3日も栓抜いたまま放ったらかしにしたビール飲まされたら、よけいに気分が悪なるがな! 今ごろ行ったら、親はよけいに怒るの決まってるやろ!」
と、ちょっと感情的になったあと、すぐ冷静になって、
「ケガをさせたという事実については、これはキチンと謝らさないかん。事後処置をすぐに済ませてから、事後指導するもんや。今すぐ電話しよう。家庭訪問には私も一緒に行く。」
幸いBの保護者は理解のある方で、事情については分かっていただいた。
「きっと、うちの子もいらんことを言ったり、したりしたんでしょう。ただ、こんなことが繰り返されないように、指導をよろしくお願いします。」
と言われた。
あらためて、生徒指導主事は若い担任を指導した。
※当事者であるAとBを仲直りさせるだけでなく、班や学級でじっくりと話し合いをさせ、災い転じて福となすような学級づくりをするのが事後指導であること。
こんなことは、経験を積んだ教師なら常識となっていることである。
JR西日本のような取り返しのつかない事故が起こらないように、教育現場でも、もう一度基礎・基本から、技術の継承を考えていくことが求められている。
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