No.60 平成20年6月 発行

地震!その時教師はどうする?

野口 克海
大阪教育大学 監事

■危機に直面した時

先日、伊豆・伊東市の前、現の二人の教育長さんとお昼ご飯をご一緒した。
 海辺の熱海の町がよく見える窓辺の席で、お天気もよく会話もはずんだ。
 ひとしきり、お互い教育長としての体験というか、苦労話が続いたあと、中国の四川大地震に話が及んだ。
 阪神・淡路大震災が起こった時、私は大阪府の義務教育課長だった。
 地下鉄などの交通機関も止まってしまった中を、自転車で大阪府庁にかけつけて、初期対応に苦労した話をした。
「伊東市も地震(海底噴火)で大変でしたね。」
 前教育長さんが、「阪神大震災は確か、午前5時46分でしたね、丁度家でテレビをつけた時でした。あの時は本当に驚きました。テレビに釘づけになりましたよ。
 伊東市の地震の時は、諸般の事情ですぐに気象庁は“安全宣言”を出せない。子どもたちの不安もさることながら、観光都市の伊東市にとっては大変なことで、止むに止まれず市長が“安全宣言”を出しました。」と話してくれた。
 現教育長さんは、「今、突然地震が起こったとしたら、あなたはとっさに、子どもたちにどんな指示をしますか?と尋ねても、答えられない、どうしたらよいか分からない教員が増えてきているんですよ。もう一度、そのあたりのことを徹底していかないと、と思っています。」
 時間がたつと危機意識は薄れていく。
 大地震は、日本でもまたいつ起こるか分からない。
「本当にそうですよね、危機意識が薄れていくのが怖い、“危機意識のないのが危機”です。」

■地震列島日本に住む私たち

帰りの新幹線の中で、現教育長さんの言葉を思い出した。
 「突然、地震が起こったとしたら、あなたはとっさに、子どもたちにどんな指示をしますか?」
 いろいろなケースが考えられるが、学校では大半の子どもたちは教室で勉強をしている。
 ドスン! グラグラと来たら、授業をしている先生は、「机の下にもぐれ!」と指示するのが常識だ。
 ただ「もぐれ!」だけで正解だろうか。
 何の為に机の下にもぐるのかという目的や必要性を日頃から子どもたちに分からせておかないと、間違ったもぐり方をする子がでてくる。

机の下にもぐるのは、落下物が頭を直撃しないように守る為である。
 ということは、頭を外に出さないもぐり方をしないといけない。
 揺れが激しかったりすると、机が飛んでどこかに行ってしまうかもしれない。
 だから、机の脚をしっかりと握った状態で、もぐらないと意味がない。
 頭を中に入れて、机の脚を握った状態で、仮にコンクリートの下敷きになっても、顔の前に空間を確保できるようなもぐり方を子どもたちにさせようとすると、地震の強い揺れが来てからのとっさの指導ではできない。
「机の下にもぐれ!」
と言ったとたんに、子どもたちが正しいもぐり方ができるようにするには、日頃からの安全指導の中で、何の目的で、どんなもぐり方をするのかということを徹底しておかなければいけないなあ……などと考えだした。
 確かに教育長さんの言われるとおりだ。机の下にもぐるだけではいけない。
 本震が一旦、鎮まったら、余震が来るまでの間に子どもたちを運動場とか、安全な場所にスムーズに誘導する必要がある。
 廊下などに立ててあったロッカーや掲示板が倒れて、子どもたちの進路をふさいでしまっていることはないか。
 次から次へとチェックすべきことがでてくる。
 学校が地震にみまわれた時、子どもたちの命を守ることができるかどうかは、その学校の先生次第という側面もおおいにある。
 その学校の規模や建築構造などの条件に応じた対策を考えておく必要がある。
 四川大地震を機会に、阪神・淡路大震災の時の教訓を今一度マニュアル化して、学校現場に徹底しなければ…
…と思っていると新大阪駅に着いた。

著者経歴

  • 元大阪府堺市教育長
  • 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
  • 元文部省教育課程審議会委員