No.64 平成20年9月 発行

新学習指導要領対応の教育課程編成

尾木和英
東京女子体育大学名誉教授
言語教育文化研究所代表理事

■基本的事項の共通理解

新学習指導要領に関し、移行措置、完全実施までをどのように見通し、教育課程を効果的に編成・実施するかが各学校の課題になっている。そこで、まず求められるのが次のような関連法令、新学習指導要領の趣旨の共通理解である。

  • 教育基本法
  • 学校教育法、同施行規則
  • 学習指導要領(平成20年3月告示)
  • 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(教育委員会規則)
  • 中央教育審議会答申(平成20年1月)

先に改正された教育基本法・学校教育法では、義務教育の目標が明示され、

  1. 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  2. 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
  3. 学習意欲

という学力の重点が明らかにされた。教育課程の構想に際して、先ず全教職員の間で、こうした基本的なことを把握することが求められる。
次に大切なのが、これまでの各学校の実践を踏まえて創意工夫を生かすことである。具体的に言うと、前年度の評価結果を生かし、次の点に留意して組織的に取り組むということである。

  • 地域や学校の実態及び子どもの心身の発達や特性を考慮するとともに、これまでの自校の実践を踏まえて適切な教育課程を編成する。
  • 基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得し、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等の能力育成を重視する。
  • 主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実を目指す。

■新学習指導要領への対応

新学習指導要領の趣旨、今後目指される基本方向、現行と新学習指導要領の内容との比較を踏まえ、今年度中の取組において必要になる改善事項、移行措置期間、完全実施時期における改善事項を明らかにし、取組の見通しを織り込んだ指導・対応計画を立てることが当面の課題になる。
 新学習指導要領への対応は、平成20年度中に周知徹底を図り、平成21年度から可能なものは先行して実施し、小学校は平成23年度、中学校は平成24年度から完全実施というのが大前提である。

そして、総則、道徳、総合的な学習の時間、特別活動については平成21年度から先行実施、算数・数学、理科については、新課程に円滑に移行できるよう、移行措置期間中から、新課程の内容の一部を前倒しして実施することになっている。
 その他の教科の先行実施の内容も含め、移行措置を織り込んだ教育計画をどう構想し、授業の体制をどう整えるか、次のような教育内容の重要事項について、自校では、教育課程のどこをどう工夫し、どういう点について重点化を図るか、十分な配慮が必要である。

  • 言語活動の充実・理数教育の充実
  • 伝統や文化に関する教育の充実
  • 道徳教育の充実
  • 体験活動の充実
  • 小学校段階における外国語活動
  • 社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項としての「情報教育」「環境教育」「ものづくり」「食育」「安全教育」「心身の成長発達についての正しい理解」

■各学校に求められる留意点

各学校においてこれからの学校づくりを進めるためには、次のことが課題になる。

  • 全校体制で教育課程の効果的な編成、実施を進めるための校内体制を確立する。
  • 言語活動、体験的・問題解決的学習、自主的・自発的学習などの充実のための研修体制を整える。
  • 効果的な指導方法の工夫、個に応じた指導の充実、情報機器・手段の活用などに留意する。
  • 学校が進める教育活動を説明し、ともに学校づくりを進める家庭・地域との連携体制を整える。
  • 実践の成果と課題を点検・評価し、その結果を生かして教育活動を展開するためのP D C Aシステムを確立する。

「生きる力」を育てる学校づくりのためには、まず新学習指導要領に基づいて基本方針を明確にする必要がある。同時に、展開する教育活動その他の学校運営に関する効果的な評価、評価結果の説明・公表が重要になる。評価結果の効果的な活用によって学校運営、教育活動の改善・充実を進め、説明責任を果たすことによって信頼を得る。そうした学校づくりに機能する、PDCAシステムの確立を目指したい。