No.67 平成20年11月 発行

北極星のような教育目標でよいのか

長南博昭
山形大学地域教育文化学部教授

■学校の「教育目標」に関する調査

今夏、「学校経営マネジメント」の公開講座を実施した。校長、教頭を含めて4 8名の参加があった。
 開講1コマ目で、早々に教育目標について議論した。ある小学校長の「学校の教育目標は、遠い、遠い北極星のようなものを目指すことでも良いのではないか」とか「教育目標は、簡単に変えてはならないものである」というような発言が続出した。これらの発言をきっかけに、他の校長や教員を交えた大激論の公開講座になった。
 一般的に学校の教育目標は、包括的で抽象的なものが多いということは、すでに指摘されている。しかし、どのような状況にあるのかについて、具体的に示している例はほとんどないと言ってもよい。
 このような問題意識から、今年の7月に、2つの県の小・中学校に対して「教育目標に関するアンケート調査」を実施した。調査対象校数は、両県を合わせて約1,000校である。調査項目の1つである教育目標を分類するために、予め、教育目標の類型パターンを作成し、それに基づいた分類を行った。その主な類型を示すと、次の7つである。

  1. 知・徳・体
  2. 副詞・形容詞羅列
  3. ~子ども
  4. ~育成
  5. ~しよう・なろう
  6. スローガン
  7. 校是・校訓

この他の8)~19)の類型として、1)~7)をお互いに組み合わせているもの、例えば、「すすんで学ぶかしこい子ども、心豊かでやさしい子ども、けんこうでたくましい子ども」のような表現を「知・徳・体+~子ども」、また、「あかるく、かしこく、たくましく」を「知・徳・体+副詞・形容詞羅列」というように、19類型を作成した。

■やはり多い「知・徳・体」を重視した教育目標

A県の小学校296校の教育目標を、この類型に基づいて分類したところ、次のようなことが分かった。
 「いのちを大切にし、こころ豊かで創造性のある子どもの育成」というような「~育成」型が最も多く、全体の28%を占めている。次に多いのが「知・徳・体+~子ども」型であり、全体の27%である。すなわち、A県小学校の55%は「~育成」型か「知・徳・体+~っ子」型の教育目標であることが分かった。

3番目に多いのは、「知・徳・体+~育成」型であり、全体の16%を占めており、71%の学校は「知・徳・体」を重視した教育目標を設定していることが分かった。
 一方、目標の具体性の点では、やはり、ほとんどが包括的・抽象的な表現であり、具体的な仕組としての教育活動に直結するような目標を設定している学校は非常に少ない。しかし、分かりやすい目標を設定し、数字や行動を含めた具体目標を掲げて取り組み、大きな成果をあげている学校もある。その学校の教育目標は、「友達大好き 運動大好き 勉強大好き」である。代表的な「知・徳・体」型である。しかも、この教育目標は、非常に分かりやすい。子どもにも分かるし、目指すものが保護者でも分かる。この他に、具体目標をいくつか掲げている。その中に「テレビ・ゲーム2時間以内」と「ケンカしても仲直りする」がある。大変ユニークであり、しかも、非常に具体的である。「テレビ・ゲーム2時間以内」は、昨年度から取り組んでいる成果改善目標であり、その前の目標は「早寝・早起き・しっかり朝食」であった。
 このような目標に対しては、学校が取り組むことなのか、という指摘もある。しかし、このことができない限り、その上の目標を目指しても、達成することができないという、学校の主体的な判断があるからこそ、あえて挑戦し、たくさんの成果をあげているのである。

■学校マネジメントの要は「教育目標」

中央教育審議会の答申でも、教育目標の明確化を訴えている。しかし、教育目標の実態は、変わっていない。教育目標の調査を実施したもう1つの県でも、状況は同じであり、具体的に分かりやすい教育目標を設定している学校は、非常に少ない。やはり、「知・徳・体が調和した子どもの育成」というように、包括的・抽象的な目標がほとんどである。しかも、教育経営の単位として、最も大きい国の教育目標のレベルと同じである。そのためか、教育目標を補完する下位の目標として「具体目標」や「子ども像」、中には「教師像」や「学校像」などを掲げている。しかし、相変わらず包括的な表現であり、レベルが掘り下げられていない。しかも、目標の羅列になってしまい、目指すところが多岐にわたっている。効果検証どころか、マネジメントそのものが機能しない状況をつくっている。
 教育目標は、その学校の学校評価や教員評価に直結するものである。そのためには、徹底的な目標分析を行い、具体的で分かりやすい「教育目標」を設定する必要がある。