No.69 平成21年1月 発行

新教育課程に生きる研修の充実

尾木和英
東京女子体育大学名誉教授
言語教育文化研究所代表理事

■校内研修の重要性

 新学習指導要領の目指すところに向けて、各学校の取組が始められている。そこには様々な課題がある。知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成一つとってみても、その実現は容易なことではない。  そこで求められているのは、単なる知識や技術の伝達ではない。基礎・基本の徹底と同時に、主体的に学び活動を展開する学習意欲、活用の力の育成が求められているのである。教師には、そうした学習を可能とする指導力が必要になる。そこでは、従来から言われていた板書、発問といった指導技術、あるいは学習集団を育てる力に加えて、指導を構想し、学習活動を組織する力や、確かな成果をあげるための指導・評価の力が要求されることになる。
 教師への期待は、学習指導面だけではない。生徒指導に関しては、子どもの多様な悩みや不安を受け止める力が重要になっている。家庭と双方向の関係をつくりあげながら問題の解決を図る力、子どもの内面を把握し子どもの発するサインを鋭くとらえて指導に生かす力が求められている。
 経営参加という点からは、指導体制を支える一員として、特色ある学校、開かれた学校づくりに機能することが期待される。
 教師が力を発揮するために、日常の実践と結びつくような形でこうした内容の研修を行うことが欠かせなくなっている。

■協働する組織と校内研修

学習指導に関しては、学力問題ともかかわって基礎的内容の定着とともに活用力育成の構想が当面の課題となっている。生きる力に結びつく学力の育成という点からは、効果的な授業の構想、体験、問題解決的な活動の導入、情報機器・手段の活用、TT の導入などが課題になる。
 授業改善に関する課題は多岐にわたっており、個々の教師の取組、毎時の授業の工夫といったレベルではとても対応しきれない。協働重視の校内研修がどうしても必要になる。
 個々の教師の指導力を高めたとしても、それはあくまでもその一人の指導力があがるということであって、「学校力」の中核に位置する「教師力」とはなりえない。ここに、協働重視の理由がある。
 そこで求められるのが、協働でのカリキュラム開発と協働重視の指導体制改善を重ねてとらえる組織マネジメントの発想である。指導改善に関する組織マネジメントというとき、そこでは何よりも達成を意図した目標の明確化、協働の組織確立が重要になる。全校体制の中で、いま子どもにつけようとする力を明らかにする。目標実現のための指導組織を整備し、個々の教師の取組を目標実現に向けて統合する。

 計画→実践→評価→改善を根底に置く取組が必要であり、その取組を支える校内研修の実施が大きな意味を持つ。

■学習する組織を目指す

学習する組織という発想は、カレン・E・ワトキンス『「学習する組織」をつくる』(日本能率協会マネジメントセンター)という本の内容にヒントを得たものである。
 この本は、未曾有の変化に直面するアメリカの企業がどうあるべきかを述べるものであるが、ここに、これからの学校のあるべき姿に関する知見が見い出される。
 これからの学校は、これまで経験しなかった事態に直面し、指導改善を迫られることになる。学校全体が学習する組織になって新たな対応を生み出すことが重要になる。
 子どもの意識と行動が急激に変化し、そこでは、これまでの指導では対応しきれない問題が日常的に起こっている。したがって、直面する課題に対して柔軟に対処することのできる体制を確立することが欠かせなくなっている。
 学校が学習する組織として機能するためには、すべての教師が研修を通して、これまでの指導・対応に対して問いを発することができるようになる必要がある。
 校内研修の機会に、新たな指導方略が提出され、その検討、意見の交流がなされる。そのとき、これまでの指導は改善され、指導体制は強化される。
 学習する組織は組織自体を鍛えるという効果を収めると同時に、新たな指導を構築する組織に学校を変身させる。全校の教師にこうした資質、能力を身につけるためには、新たな発想による校内研修が欠かせない。
 先ずは自校の独自性や特色ある教育活動のねらい、更には直面することになった緊急の問題について共通理解を図る。全教職員の検討によって指導を構想し、指導展開の道筋をつける。指導・対応が適切、効果的であるかどうかを把握するために自己点検・自己評価の機能を強化する。

目標達成、問題解決の構造が不明確であり、組織的な指導が見られない場合、時間を超えた取組はなされるが確かな成果は得られないといった事態が起こる。
 新しい課題に対して教育活動を展開する際には、過去の経験に寄りかかり、指導を自己完結的にとらえるのではなく、自校指導組織、近隣の小・中・高等学校、関係機関等との連携・協力、保護者、子どもとも協働する関係を築き、新しい指導を開発することが重要である。
 いま求められるのは、そうした取組に機能する研修である。