No.71 平成21年3月 発行

変わらない「学校の教育目標」

長南 博昭
山形大学地域教育文化学部教授

■教育目標に対する校長のイメージ

先日、ある小学校長から教育目標について相談された。その内容は、次のようなことである。

 本校の学校教育目標は、「かしこく やさしく たくましく」です。来年度は、もっと具体的な教育目標に変えたいと思っています。しかし、校庭には、「かしこく やさしく たくましく」という石碑があり、大変悩んでいます。どうしたらよいでしょうか。

 昨年の7月に「学校の教育目標に関するアンケート調査」を、小・中学校の約1000校に対して実施した。質問項目の1つに「校長の教育目標に対するイメージ」があり、自由記述で回答してもらった。それをまとめると、おおよそ次の20のいずれかに分類することができた。

  1. 長期的な目標であり、簡単に変えるべきでない
  2. 検証可能な目標を設定すべきである
  3. 方向性を指し示すもの
  4. 地域・学校・保護者が協働して子どもを育成できる学校づくりが可能な目標
  5. 地域への公約・宣言
  6. 教育の願いや思いについて記されているもの
  7. 理想像・子ども像・理念
  8. 設定のレベルが難しいもの
  9. 共通理解するもの
  10. 意欲的に取り組めるものを設定すべきである
  11. 学校が設定するめあて・目的
  12. 長期的な目標と短期的な目標の組み合わせを工夫していくもの
  13. 種々の教育活動が、教育目標の達成にどれほどの成果を上げているかを意識し、評価していくことが大切である
  14. 意識することが少ないもの
  15. 知・徳・体の調和のとれたもの
  16. 包括的にならざるを得ないもの
  17. 校風
  18. 子どもが、自分の学びや生活と教育目標とをとらえられるように、関連づけを図っていくもの
  19. 校訓を実現するためのてがかり
  20. 小・中学校で連動した目標を設定すべきである

これらの中で、5.6.7.がそれぞれ14%程度で、もっとも高い率を示している。次に高いのは、2.4.10.11.であり、それぞれ8~12%である。1.の「長期的な目標であり、簡単に変えるべきでない」は、2%くらいであった。

■変えることがむずかしい教育目標

教育目標の継続年数も回答してもらった。その結果は、小・中学校ともに、だいたい10年くらいで変えており、3~4年と7~8年のところに山がある。もっと、長い年数なのかと思っていたが、意外に短いことが分かった。しかし、中学校では、60年を超している学校が3%もあることには驚いてしまった。

次に、今年度に教育目標を変えた3つの学校について詳しく見ると、変える前の教育目標と変えた後の教育目標は、次のようであった。

健康な子ども、賢い子ども 健康な子ども 賢い子ども 広くかかわれる子ども
かしこく、明るく、たくましく かしこく、明るく、たくましく 地域を知り愛する
心、技、体 豊かなかかわりの中で、学び合い高め合ういのち輝く子どもの育成

2つの学校の教育目標は、部分的な変更であり、ほとんど変わっていない。しかし、学校としては、「教育目標を変えた」という認識である。
 そして、教育目標を変える理由について尋ねると、次のような回答があった。

  • 児童、教職員、保護者や地域が常に意識できる目標に変えた。
  • 親しみやすいものに変えた。
  • 教育課題が一層明確になるように変えた。
  • 部分的に変更した。
  • 毎年見直しをしている。
  • 新たに教師像を示した。一方、教育目標を変えない理由としては、次のような回答があった。
  • 教育目標は不易である。
  • 知・徳・体が示されていれば、大差がない。
  • 昨年度変えたばかりである。
  • 新任校である。
  • 具体目標を変えているので、教育目標は変える必要がない。
  • 実態に合っている。
  • 前校長の意思を継ぎたい。

目標は目指すものではなく、達成するものである。教育目標の「目的化」が目立つ。目的と目標を明確に区別する必要があるのではないか。