my実践事例小学校 道徳

1.学習指導案

(1)主題名 誠実に生きる  A[正直、誠実]

(2)教材名 「手品師」(出典:日本文教出版「新・生きる力」)

(3)ねらい
 大劇場へ行かないと決意した手品師の思いを考え、後ろめたさや後悔のない、誠実に明るい心で生活をしていこうとする心情を育てる。

(4)展開の概要

学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

○指導上の留意点 ◇評価


1 誠実について考える。
○誠実の意味について考えてみましょう。

○主題名を黒板に書き、「誠実」の意味を伝える。




2 教材「手品師」を読んで話し合う。
○手品師はどのような気持ちで、男の子に「明日も来るよ」と約束したのでしょう。
・どうせ暇だから
・男の子がしょんぼりしている
・男の子が元気になってほしい

○黒板の右上に、場面絵①(手品師と男の子を描いた絵)を貼る。
○「手品師」の気持ちの移り変わりを考えながら読むように指示する。余韻をもつ。
○場面絵②と発問カードを貼ってから発問する。発問後、考える時間を十分に取る。
○困っている人や悲しんでいる人がいると、手を差し伸べたくなる手品師の温かさをつかませる。

○大劇場への誘いを迷いに迷う手品師の心の中は、どんなだったでしょう。
〔大劇場への気持ち〕
・やった、これで大舞台に立てる
・貧乏から抜け出せる
・こんなチャンス2度とこない
〔男の子への気持ち〕
・約束を破るのはよくない
・男の子が悲しむ
・男の子には私しかいない

○場面絵③④と発問カードを黒板中央に貼ってから発問する。
○大劇場への気持ちを発問カードの右側に、男の子への気持ちを左側に分けて板書する。
○大劇場へ行きたいとする気持ちと、男の子のもとへ行かねばならないという気持ちとの葛藤を考えさせる。
○どちらの考えも正しいとの立場を取る。
○方法論の発言の場合は、本題に戻していく。

◎大劇場に行かないと決意させたのは、どのような思いからでしょう。
・約束を守ることが大切
・男の子との約束を破ると、もういつ会えるか分からない
・自分のことも大切だが、男の子のことも大切
・人を悲しませてまで自分が幸せになることはよくない

○場面絵⑤⑥と発問カードを貼ってから発問する。
○自分の良心に従って行動することができた人間としてのすばらしさ、誠実な心の大切さを考えさせる。
◇大劇場へ行かないと決意した手品師の思いに共感することを通して、誠実に明るい心で生活することの大切さを考えることができたか。(発言)




3 これまでの自分の生活を振り返る。
○誠実に取り組んでよかったなと思うことはどのようなことですか。自分の生活に振り返って考えてみましょう。
・自分の利益より、相手のことを考えていきたい。
・手品師のように、誠実に生きていきたい。
・損得関係で行動しない。
・約束は守る。

○展開前段を振り返ってから課題を示す。
○今回は、発表しないことを伝える。
○発問後、ワークシートに記述させる。
○考えが思い浮かばない児童には、児童のよいところを伝えたり、板書を見ながら助言したりする。
○自分ができたこと、できなかったことを振り返ることによって、今後の誠実な生き方への糧としたい。
◇後ろめたさや後悔のない、誠実に明るい心で生活していくこと大切さについて、自分との関わりで振り返ることができたか。(ワークシート記述)


4 教師の説話を聞く。
○子どもの誠実なる行いについて紹介する。

○日常生活での誠実なる行為を称え、道徳的価値を高める。

(5)本時の評価
○大劇場へ行かないと決意した手品師の思いに共感することを通して、誠実に明るい心で生活することの大切さを考えることができたか。(中心発問での発言)
○後ろめたさや後悔のない、誠実に明るい心で生活していくことの大切さについて、自分との関わりで振り返ることができたか。(展開後段でのワークシート記述)

2.本時の板書

3.授業記録

【展開前段】
手品師はどのような気持ちで、男の子に明日も来るよと約束したのでしょう。
01さん あまり売れていない暇な手品師だから、小さい男の子が一人でしょんぼりしていてかわいそうだから、ぼくが手品を見せてあげようと思った。
02さん いつもは売れていないから、誰にも手品を見せることはできないけど、小さな男の子でもお客さんだから、手品を見せてあげようと思った。
03くん 01さんと似ていて、明日暇だから、来てやろうと思った。
04くん どうせ誰も見てくれないんだから、見てくれるんだったら精一杯やってやろう。
05さん 02さんと似ていて、暇だし、この男の子も一人のお客さんだから、手品を見せて元気になってほしい。
06さん 05さんと似ていて、男の子が自分の手品を見て喜んでくれたから、明日ももう一度見せてあげたい。
07さん もう二度と男の子のかわいそうな顔を見たくない。
08くん 明日暇だし、ただ街を歩いているよりもいいか。
09くん 約束して、明日また行かなかったら、男の子は悲しむだろう。
10さん 自分の手品で男の子が明るくなってくれるなら、自分の手品をもっとやってあげたい。
11さん 10さんに似ていて、あまり売れていない手品だけど、たった一人でも見てくれるんなら頑張ろう。
12さん あまり売れないということはおもしろくないということだけど、その男の子は明るさを取り戻していたので、しかし、明日来なかったら、また暗い顔になるだろう。
13くん 手品をして喜んでくれるのだったら、精一杯やろう。
 第1発問では、手品師の自己都合や充実感といった自分自身に対する気持ちと、男の子への気遣いという相手に対しての気持ちが、子どもたちから表れました。
 01さんは、「しょんぼりしていてかわいそうだから」と発言していますが、売れない手品師ということで手を差し伸べていると考えられます。もし、売れっ子の手品師であったら、男の子の前で手品を見せていないと考えることもできます。02さん、03くんも同様に続きます。04くんは「見ている人がいるなら精一杯頑張りたい。」と考えに少し変化が見られました。05さんは、「男の子に元気になってほしい。」と変化していきました。06さんは、喜んでもらった嬉しさ。07さんは、男の子を悲しませたくないと続きました。10さんは、男の子の気持ちによく寄り添って考えています。

【第2発問】
大劇場への誘いを迷いに迷う手品師の心の中は、どんなだったでしょう。
14さん 大劇場だったらこれから苦労しないで豊かに暮らせるけど、男の子はまだ子どもなのに、お父さんが死んでお母さんも帰ってこないから、ちゃんと子どもの方に行って、その悲しみを自分が埋めるというか……
15くん 大劇場に行っていたら嬉しいかもしれないけど、子どもが喜んでもらえない、どうしよう。
16さん 大劇場で手品をして売れっ子になったら嬉しいけど、男の子をまた悲しませるわけにはいかないから、男の子との約束を優先したい。
17くん 大劇場でやるのは二度とないチャンスだけど、男の子との約束を破ってしまうと、人として悪いから。
12さん 14さんと似ていて、大劇場に行けば自分が有名にすぐになれるけど、男の子の方へ行って、少しずつ人気を増やして、代わりの力ではなく自分の力でお客を増やしていきたい。
10さん 大劇場に行けば、自分がすごい有名になると思うけど、男の子が自分の力で明るくなれるのなら、男の子の方を優先したい。
18さん もしもこの電話が、男の子と約束する前にかかってきたとしたなら、大劇場に行ってもよかったと思うんだけど、先に男の子と約束したのだから、そっちを優先する。
19くん 大劇場で手品を披露するのは、二度とないチャンスなのだけど、そこでもし売れたら仕事が忙しくなって暇がなくなって男の子のところに行けなくなって、二度と男の子の笑顔を見ることができなくなる。
05さん 自分にとって大劇場は夢だけど、自分の手品で喜んでくれた男の子にとっては手品を見ることが夢なので、約束をしてしまったので、優先的に男の子のところへ。
01さん 手品師は、人のことを笑顔にさせるのが仕事だから、大劇場に行けばたくさんの人を笑顔にすることができるけど、それは他の手品師でもできることなので、男の子の方には自分にしか行けないので、自分は男の子の方に行かないと、男の子は悲しんじゃう。
02さん 大劇場に行けば確かに売れっ子になるだろうし、今みたいな暮らしはしなくていいけど、明日男の子が手品師のことを楽しみに待っている姿を目に思い浮かべると、約束を守らなきゃならない。約束を破ってはいけない。
11さん 大劇場には自分でなくてもできるけど、男の子には、自分しか手品をすることができない。
19くん 男の子には明日も来るって行って約束したのに、もし自分が明日も来ると言われて来なかったらショックだし、男の子がもし自分が来なかったら、どんなことをするかわからないから、行かないといけない。
 最初に発言した14さんは、レポートの活字にすると平坦なイメージになりますが、実際には、じっくり、間を置きながら(考えながら)話していっています。皆は話し手の方を見ながら発言を聴いているので、14さんの「~~かもしれないけれど~~」という対比的な考え方を発言したことにより、2人目からの発言者も同様に発言していくといった傾向が見られました。
 12さんは、「代わりの力ではなく、自分の力でお客を増やしていきたい。」と発言しました。芸能関係の仕事をしていることから、自分の思いが込められているようでした。第1発問においても、「あまり売れないということは面白くないことだけど」と考えているようにです。
 01さんは3つのキーワードを提示しました。「手品師は人を笑顔にさせるのが仕事」「大劇場は他の手品師でもできる」「男の子には自分にしかできない」この考えは、第3発問への思考に、大きく影響を与えていくこととなります。
 16さん、17くん、約束を守ることの大切さについて言及しました。さらに、02さんは、その考えをより強くしていきました。誠実とは、約束を守ること。この考えは、展開後段の自己への振り返りにもつながっていきます。
 最後に、19くんの考えに着目してみます。第1発問では、「明日暇だし、ただ街を歩いているよりもいいか。」第2発問では「大劇場で売れたら、仕事が忙しくなって暇がなくなって男の子のところに行けなくなって、二度と男の子の笑顔を見ることができなくなる。」と発言しています。どちらも、手品師の立場に立った考えです。
 道徳の授業では、あまり発言の見られなかった19くんですが、第1発問、第2発問と、途中からではありますが、挙手をしていきました。彼の真剣な眼差し、発言に、私は感動しました。最後に、11さんが発言して、第3発問に入ろうとしたとき、19くんが再び挙手をしました。時間的なこともあって、次の発問に入りたかったのですが、19くんの目が訴えています。「言いたい、どうしても語りたい」と。
 私は彼を指名しました。すると「男の子が、もし自分が来なかったら、どんなことをするかわからないから、行かないといけない」と発言しました。今までは手品師の立場からの発言でしたが、今度は相手の立場に立った、男の子のことを真に考えたからこその発言でした。「どんなことをするかわからないから」との発言は、この教材からはかけ離れている、飛躍し過ぎると捉えてしまうかもしれません。しかし、そうでしょうか。私は、この言葉に、子どもたちの本音を感じます。裏切られたら。何も信じられなくなったら。そのとき、人間はどうなるのでしょうか。

【中心発問】
大劇場に行かないと決意させたのは、どのような思いからでしょう。
20くん 男の子をこれ以上悲しませるのはしたくない。
06さん 男の子が約束を破られたために、いろいろな人を信じられない性格にはしたくない。
21さん 今自分の一番しなくてはならない仕事は、大劇場のステージの穴を埋めることではなく、男の子の心の穴を埋めることだ。
15くん 劇場はまたあるかもしれないけど、男の子とは今度いつ会えるかわからないから、男の子の方を決意した。
09くん 21さんに似ていて、今自分にしかできないことは、男の子を元気にさせること。
10さん 大劇場に行くことは自分だけの夢だけど、男の子のところに行ってあげれば男の子に夢を見せてあげられる。
13くん 人を楽しませることが手品師の仕事だ。
04くん 13くんに似ていて、人を楽しませることが手品師の仕事だから、より困っていて悲しんでいる男の子を楽しませることだ。
02さん 大劇場のステージで披露できるのも最初で最後のチャンスかもしれないが、この男の子との約束を破ったら、男の子に会えない確立の方が、大劇場に出られない確率より高いから。
01さん 13くんと04くんと似ていて、手品師は人を楽しませるのが仕事だから、男の子を悲しませてしまうのは、手品師の仕事と逆になってしまうから、手品師失格になってしまうから、男の子の方に行く。
 第2発問での最後の19くんの発言は、第3発問において、06さんに受け継がれていきます。「人を信じられない性格にはしたくない」と。
 同じく、第2発問での01さんに発言も、21さんに受け継がれていきます。「大劇場のステージの穴を埋めることではなく、男の子の心の穴を埋めることだ」と。21さんが発言した後、教室のあちらこちらから、うなずきの声があがりました。
 そして、13くんは、自分の信念を語るように「人を楽しませることが手品師の仕事だ」と言い切りました。その発言は堂々たるものでした。手品師の仕事に対する誠実さが感じられました。13くんの発言を受けて、最後に01さんは語りました。「手品師は人を楽しませるのが仕事だから、男の子を悲しませてしまうのは、手品師の仕事と逆になってしまう、手品師失格となってしまう」と。01さんは、第1、2発問と、一貫して男の子へのやさしさを説いています。しかし、第3発問では、手品師という職業への誠実さをも説きました。手品師として、人間として、生きるべき道を。
 「自分に誠実であれ、相手に誠実であれ、仕事に誠実であれ。」仕事もしたことのない、たった11歳の子どもたちが、この道徳の授業を通して、訴えているように感じました。

【展開後段】
誠実に取り組んでよかったなと思うことはどのようなことですか。自分の生活に振り返って考えてみましょう。
17くん ぼくは、先に友達と約束したことを、後に約束した方が楽しいからといって、先に約束した方を破ってしまい、友達に嫌な思いをさせてしまいました。しかし、この話を聞いて、楽しいからといって、後の約束を守る人ではなく、先に約束したほうを優先したいです。
01さん 私は、友達に勉強を教えているときに、もう一人の友達から教えてと言われたときに、その子の方へ行ってしまって、最初の友達が「何でそっちに行ったの」と言われて、自分は最初の友達に悪かったと思いました。手品師のように約束を守れる人になっていきたいと思いました。
20くん お祭りに行ったとき、おみくじで2等を取り、ラジコンをもらった。その後、小さな男の子がヘリコプターの羽根が割れて泣いていたところを見て、ラジコンをあげたら、とても喜んでもらって、よかったと思った。
22くん ぼくは、今まで損得で考えて行動することが多かった。「この誠実に生きる」を考えて、これをやったら得をするなど考えず、自分がやってもらったら嬉しいことを相手にもやってあげることが重要だと思いました。
06さん 私は、自転車置場から自転車を取り出そうとして他の自転車も一緒に倒してしまったおばあさんを手伝いました。その時は習い事に行く途中でした。手伝って習い事の教室に着いたときは、始まる時間には遅れて、先生に怒られてしまいました。しかし、よいことをしたということは変わらないから、手伝ってよかったなと思いました。この話を学んで、私も手品師のように、自分の利益より人のことを考えられるような人になりたいです。
16さん 私が5年生のときに、保育園との交流会を行った、保育園の人たちに楽しんでもらえるようにどうすればよいか、私は友達と休み時間をつぶして話し合った。他の人たちは校庭で遊びに行ったが、私と友達は計画を立てた。すると、保育園の交流のときに、保育園の人たちがとても喜んでくれた。このことから私は、誠実に物事に取り組むことの大切さを学んだ。
18さん 体育が苦手で、前はいつも逃げていて、自分の中では得(らく)をしていました。でも、今は、逃げないで体育をやっているので、前よりも少しできるようになってきました。だから、何事にも逃げないで、損得関係なく、やっていきたと思います。

4.授業を終えて

○誠実とは… 自分にとって、相手にとって、仕事にとって誠実であるということが、子どもたちからの学びとして浮かび上がりました。

○今回の授業は、教師の発言を極力控えて、児童たちの発言にある程度ゆだねてみることにしました。しかしながら、教師の適切な補助発問や、児童の発言を受けて問いかけていくこと等、教師の適切な問い返しや補助発問が大切であることがわかりました。また、第2発問で、葛藤する二つの気持ちについて役割演技のペア学習を取り入れることが必要であることを、授業後に考えさせられました。

○二か月後に、「杉原千畝」(日本文教出版「新・生きる力」6年)の教材を用いて、D[よりよく生きる喜び]の学習を行いました。中心発問では、子どもたちから、「困っている人を助けたい」「見て見ぬふりはできない」「人として正しい生き方をしたい」「胸を張って生きたい」との声が挙がりました。このように、誠実に生きることが、人間として、よりよく生きることにつながってくるのではないかと考えました。