ブックタイトル平成30年度版 内容解説資料(小冊子)
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平成30年度版 内容解説資料(小冊子)
151 153美術館に行こうこれからの私と美術 皆さんは美術館に行ったことがありますか。全国には特色のある美術館が多数あり、日本や海外の作家の様々な作品を見ることができます。この教科書に登場する作品にも出会えるかもしれません。実際に作品を見ると、印刷物では分からなかった新たな魅力に気付くことができます。美術館は美術の面白さを伝え、私たちに美術との多様なかかわり方を提案してくれます。ここで紹介する美術館の役割や楽しみ方を参考にしながら美術館に行ってみましょう。 作品の制作や鑑賞を通して、何かをつくる喜びを感じたり、形や色の面白さを発見したり、デザインの工夫に気付いたりできたのではないでしょうか。美術から学んだことを暮らしの何気ない場面で意識することによって、生活に潤いを与えることができます。私たちの生活の中で、美術を通して学んだことをどのように生かすことができるのか考えてみましょう。集めて守る調べる見せる広める美術館には、貴重な作品を収集し、大切に守り伝える役割がある。各館の特色を出すために、収集のテーマを決めていることがある。展示室や収蔵庫は温湿度を一定にするなど、作品の保存に適した環境になっている。学芸員が作品や作家、技法などに関する調査・研究を行う。この研究成果が様々な展覧会の企画につながったり、作品を修復するときの参考になったりする。優れた作品をより多くの人に見てもらうために展覧会を開催する。展覧会には、自館の収蔵作品で構成する「収蔵品展」や、あるテーマに基づいて他館や所蔵者から作品を借り、一定期間展示をする「企画展」などがある。作品の魅力を伝え、来館者に見やすく分かりやすい展示にするために、作品の並べ方や照明の当て方など展示方法を工夫している。建築空間を楽しむ展示空間としての機能があるだけではなく、そこにいるだけで開放的な気分になったり、落ち着いた雰囲気を味わえたりするような建築空間も美術館の魅力である。色の効果や文字のデザインなどを工夫して分かりやすい資料をつくり、印象的なプレゼンテーションをすることができる。分かりやすい発表資料をつくる建築家ネイリストフラワーデザイナーグラフィックデザイナー漫画家美容師建物を設計する。イメージを明確にするために模型をつくり、設計図を描く。建物を取り巻く社会や環境とのかかわりも考える。花束をつくったり、結婚式やパーティなどの会場を花で飾ったりする。客の要望や会場の雰囲気に合わせて、どのような形と色の花を組み合わせるか考える。絵と文字、コマ割り、吹き出し、オノマトペ、集中線などを効果的に用いることで、笑いを誘ったり、感動を与えたりするような物語を創作する。友人にプレゼントを選んだり、自分の部屋のインテリアに合うものを買ったりするときに、美術で学んだ形や色に関する知識を生かして、相手や場面に合ったものを選ぶことができる。買い物を楽しむ爪の形を整えてマニキュアを塗ったり、絵や模様で装飾をしたりするネイルアートを行う。客の要望や服装に応じてデザインを考える。商品のパッケージやポスター、ゲームのキャラクターや背景など、様々な視覚イメージをデザインする。企業などの依頼に応じたデザインをすることが求められる。美容学校などで学び、美容師の資格を取得した後、美容室での経験を積む。技術のみならず、客に合う髪型や髪の色を見極める力が求められる。休憩をする展覧会を見て疲れたら、館内のカフェやレストランで休憩をすることもできる。気になったことを調べる図書室が併設された美術館もある。展覧会を見て疑問に思ったこと、もっと知りたいと感じたことがあったら、美術書や展覧会図録などを読んで調べてみよう。思い出を持ち帰る展覧会で好きな作品を見付けたら、ミュージアムショップで作品がデザインされたグッズを探してみよう。その日の楽しかった思い出と一緒に持ち帰ることができる。多くの人に術や美術館について興味をもってもらうために、様々な教育・普及活動を実施している。展示室でスタッフと対話をしながら鑑賞する「ギャラリー・トーク」や、「ワークショップ」と呼ばれる体験型プログラムなど、来館者は美術や美術館と多様なかかわり方ができる。日常生活の中に生かす将来の仕事に生かす美術館といえば、たくさんの美術作品がガラスケースの中に並んでいる光景を思い浮かべるかもしれません。しかし、美術館は作品の展示だけではなく、他にも様々な役割を担っています。美術館には、作品を鑑賞したりワークショップに参加したりする以外にも、来館者が楽しめる様々な施設があります。美術館に行った際には、ぜひ利用してみましょう。美術で学んだ知識や経験は、その他の様々な仕事にも生かすことができます。あなたの将来の仕事にどのように生かせるかを考えてみましょう。ここで紹介した以外にも、美術で学んだことを生かせる職業はたくさんあります。どのような仕事があるか調べてみましょう。ここでは、鑑賞のポイントや気を付けたいマナーを紹介しています。参考にして、美術館の展示室で作品を鑑賞しましょう。水戸芸術館現代美術センター「高校生ウィーク」高校生ウィークは、毎年1回約1ヵ月の間、高校生が無料で展覧会を観覧できる企画である。期間中は展示会場の一角に、来場者は誰でも入れる無料のカフェを特設し、高校生がボランティアとして運営に携わる。そこでは高校生が考えた企画や、アーティストを講師に招いたワークショップが開催されるなど、様々な年代の来場者と高校生との交流の場となる。高校生が主体的に美術館とかかわり、作家や地域の人との交流の中でアートを体感することができる。収蔵庫の中の様子。展示されていない絵画をラックに掛けて保管している。ラックを引き出して絵画の出し入れをする。展示室 世田谷美術館[東京都]美術館のロビー 国立新美術館[東京都]レストラン 世田谷美術館アートライブラリー 世田谷美術館美術館ってどんなところ?もっと美術館を楽しむ展示室で作品を鑑賞しよう高校生が人とアートに出会う4 週間上:ボランティアスタッフによるギャラリー・トークで、曽そ谷や朝あさ絵え(神奈川県・1974~)の作品を鑑賞する中学生。 左:高校生ウィーク(p152下段参照)の特設カフェに、ワークショップで撮影した写真を展示する高校生。 水戸芸術館現代美術センター[茨城県]特設のカフェの様子。来場者は飲み物を手に、ゆったりとした時間を過ごすことができる。各テーブルではワークショップや企画会議が行われている。作品に触らないように気を付けよう。手の汗や油脂が付着すると作品が劣化してしまう。近付いたり離れたり、様々な角度から作品を見よう。作品の印象はどう変わったかな?メモは鉛筆で取ろう。万が一ペンのインクが飛ぶと、貴重な作品が汚れてしまう。他の来館者の迷惑になるので、大声で騒がないようにしよう。同じ作者の作品、異なる作家の同じテーマの作品など、他の作品と比較をしてみよう。作品の新たな特徴を発見できたかな?感じ取ったこと、考えたことを友達と話し合おう。友達の意見を聞いて、自分の見方は変化したかな?20 21絵画表現人物を描くその人を表す情景を描こう表情やぐさとともに、画面に描かれている事物や背景などもその人を表現する手助けになります。どのようなしぐさやポーズ、情景がその人をより深く表すことができるか考え、工夫して描きましょう。想像力を広げて人物画を描こうモデルの人間性を表すために、過去の場面や未来への希望、象徴的な事物や姿勢、ポーズなど目に見えていないものを描き込むことも有効です。想像力を駆使して自由に発想しましょう。左:らくがき[水彩・アクリル・紙/91×116cm] 2014 生徒作品右:いつまでも同じ私じゃない[油彩・キャンヴァス/116.5×116.5cm]2014 生徒作品「自分の中の『変わりたい』という思いを『髪を切る』という行動に置き換えて表現しました。背景を教室にすることで日常感が出たと思います。」「普段から好きなものを何気なく描いている落書き。そんなものが、教室の中で立体になって飛び回ったら面白いだろうな、と想像して描きました。」クリスティーナの世界[テンペラ・石せっ膏こう塗りの板/81.9×121.3cm] 1948ニューヨーク近代美術館蔵[アメリカ]アンドリュー・ワイエス[アメリカ・1917~2009]ワイエスは、身体の不自由なクリスティーナが誰の助けも借りずに丘の上の家に向かう光景に、彼女の気高さや崇高さを込めた。後ろ姿からでも人間性を表現することができる。立てる像[油彩・キャンヴァス/162×130cm] 1942神奈川県立近代美術館蔵松まつ本もと竣しゅん介すけ[東京都・1912~48]画面中央の両足で地面を踏みしめて立つ青年は松本自身である。大きく描かれた力強く立つ姿勢から生きることへの強い意志が感じられる。腕を組んですわるサルタンバンク[油彩・キャンヴァス/130.8×98cm] 1923ブリヂストン美術館蔵[東京都]パブロ・ピカソ[スペイン・1881~1973]椅子に座ったり、手や足を組んだりすることは日常よく目にするものである。日常的なポーズやしぐさの中にモデルの個性や人間性が顔をのぞかせることがある。P13・44・93・111 パブロ・ピカソシカゴ[ガッシュ・紙/68.6×91.4cm]1955ベン・シャーン[リトアニア-アメリカ・1898~1969]音楽を奏でる3人組である。熱狂的な演奏の雰囲気を動的に表すため、指や手の長さ、関節の位置などはかなり自由に描いている。エッフェル塔の新郎新婦[油彩・キャンヴァス/150×136.5cm] 1938~39パリ国立近代美術館蔵[フランス]マルク・シャガール[ロシア-フランス/1887~1985]シャガールは、エッフェル塔を背景に、宙に浮かぶ花嫁よめ・花婿むこを時間や空間の異なる様々な風景や登場人物、動物などと組み合わせて、幻想的なイメージで描いた。P112 マルク・シャガール詩人に霊感を与える女神[油彩・キャンヴァス/146.2×96.9cm] 1909バーゼル市立美術館蔵[スイス]アンリ・ルソー[フランス・1844~1910]ルソーは画家マリー・ローランサンをミューズ(芸術の女神)に見立て、詩人ギヨーム・アポリネールに霊感を与える存在として描いた。P112 アンリ・ルソー日常の場面で人物を表そう日常の行動がその人を端的に表すことがあります。また、見た目は普段通りでも心の中では不思議な想像が膨らんでいるかもしれません。日常の場面にいるモデルを自由な発想で描き、個性や人間性を表してみましょう。絵画を作るものは観念ではなく、人生だ……実人生なんだよ。マルク・シャガール表現生命感や存在感を表す彫刻56 57日本の子ども[ブロンズ/高さ41.5cm] 1982ジャコモ・マンズー[イタリア・1908~91]撮影:岡おか村むら崔たかしP113 ジャコモ・マンズーカンカン帽[ブロンズ/60×51.5×40cm]1975 佐川美術館蔵[滋賀県]佐さ藤とう忠ちゅう良りょう[宮城県・1912~2011]ピエール・ド・ヴィッサン[ブロンズ/204.5×96×100cm] 1884~95北九州市立美術館蔵[福岡県]オーギュスト・ロダン[フランス・1840~1917]P59・110 オーギュスト・ロダン猫[テラコッタ/22×40×48cm] 1965木きの内うち克よし[茨城県・1892~1977]マリーナ(女性の肖像)[着彩・石せっ膏こう/33×23×26cm] 1938マリノ・マリーニ[イタリア・1901~80]P113 マリノ・マリーニ塑造で表す塑造は、粘土などで肉付けをして像をつくることです。削ったり付けたりしながら指やヘラなどの跡を生かし、質感も工夫して制作しましょう。特徴のあるポーズを表そう人物や動物のポーズからは、気持ちや動きを感じることができます。ピンと張った腕、ひねった体など、友人とポーズを取り合って、受ける印象を確かめながら表現しましょう。たま[ブロンズ/45.5×32×30.5cm]1930 朝倉彫塑館蔵[東京都]朝あさ倉くら文ふみ夫お[大分県・1883~1964]Miserere Ⅵ[ブロンズ/175×53×47cm]1996 石川県立美術館蔵中なか村むら晋しん也や[三重県・1926~]生命感や存在感を表す 具象彫刻は、モチーフが持つ重心の位置を工夫することで、安定感や動きなどを表現できます。また、彫刻で髪の毛や目などはどのように表現すればよいでしょうか。つくることと同時に省略することも重要です。このような彫刻のよさや特性を生かして、人物や動物などから表情や動き、独特の雰囲気などを感じ取り、生命感や存在感のある彫刻を制作しましょう。手の表情を工夫して表すことで、感情や意味を人に伝えることができます。テーマを決め、感情や意味が伝わるような手を工夫してつくりましょう。1 テーマを考え、スケッチを描く。ポーズを決め角度を変えてデッサンし、構想を深める。2 関節の位置や量感を考えて芯をつくる。手でポーズを取り、感じを確かめながら粗付けする。3 全体の形や量感を意識しながら粘土を付ける。大胆な表現を心がけ、バランスを整える。4 面の表情を意識し多方向から観察する。指先にも気を配り、表面を整えながら完成に向かう。光に向かって[粘土・針金・ひも/32×18×15cm] 2015根ね岸ぎし創そう[東京都・1973~]表情のある手をつくろう表情や動きなどを感じ取り、生命感や存在感のある彫刻を制作する。芸術家にとっては一切が美しい。オーギュスト・ロダン70 71表現ポスターで伝えるデザイン上:VICTORY[103×72.8 cm] 1975下:アイデアスケッチ[鉛筆・紙/左12.9×15.8cm右13.7×8.8cm] 1974二にの戸へ市しシビックセンター蔵[岩手県]福ふく田だ繁しげ雄お[東京都・1932~2009]単純な形と色、対角線の明快な構成が見る者に強い印象を与える。砲口に砲弾が向かってくるというイメージで、反戦を訴えるポスターである。「いわて子どもの森」ポスター[サイズ不詳] 2003イラストレーション:及おい川かわ賢けん治じ[千葉県・1975~]竹たけ内うち繭まゆ子こ[千葉県・1974~]親しみやすいイラストや文字を、動きを付けて配置することで、施設のテーマである「楽しさ」との出会いを子どもたちにも分かりやすく伝えている。HIROSHIMA APPEALS「鳥たち」[103×72.8cm] 1984粟あわ津づ 潔きよし[東京都・1929~2009]「HIROSHIMA APPEALS」は、原子爆弾を投下された広島から、平和を呼びかける「ヒロシマの心」を語り続けることを目的にポスターを制作するプロジェクトである。鳥は“PEACE、PEACE”と鳴いているという音楽家の言葉から着想を得て、多くの鳥をパステルで画面いっぱいに描いた。東京オリンピック[103×72.8 cm]1962 東京国立近代美術館蔵亀かめ倉くら雄ゆう策さく[新潟県・1915~97]何十回もスタートダッシュを繰り返し、ランナーが折り重なりつつも全員の顔が見える決定的瞬間を撮影した。一瞬を切り取る写真の臨場感を生かしたポスターである。P120 亀倉雄策シャッターを切るタイミングが早すぎる。6人の顔が見えない。無題(フライング・フィギュア)[40.3×29.8cm]1977 オークランド美術館蔵[アメリカ]ジャン=ミシェル・フォロン[ベルギー・1934~2005]アムネスティ・インターナショナル「良心の囚人の年」のポスターである。囚人服の人物が虹色の翼で空を飛ぶイラストで、思想や信条を理由に不当に逮捕された人々の救済を呼びかけている。日本古典芸能団招しょう聘へい記念イベントのためのポスター 日本舞踊[103×72.8cm] 1981DNP文化振興財団蔵[東京都]田た中なか一いっ光こう[奈良県・1930~2002]アメリカで行われた日本古典芸能を紹介するイベントのポスターである。日本髪の女性を単純な形と色の組み合わせだけで明快に構成し、日本舞踊というテーマを表した。P120 田中一光今日の日本のポスター展(チューリッヒ)[112.5×90.6cm] 2006永なが井い 一かず正まさ[大阪府・1929~]海外で開催した日本人作家のポスター展の告知用ポスターである。紫の花と組み合わせた鶴や、白い背景と赤い丸で日本のイメージを象徴している。P78 永井一正コンテストへの作品募集ポスター[サイズ不詳] 2010アートディレクション:浅あさ葉ば克かつ己み[神奈川県・1940~]イラストレーション:池いけ田だ 学まなぶ[佐賀県・1973~]葛飾北斎「神奈川沖浪裏」の構図を生かし、「クール・ジャパン」のアイデアコンテストへの参加を呼びかけるポスターである。余白に日本独自の美意識を感じさせる。 ポスターは、多くの人が集まる駅や街の中などに掲示され、視線を引き付けてメッセージを確実に伝えることが求められます。身の回りにあるポスターから、文字やイラスト、写真など様々な要素で構成された表現の特徴や工夫を読み取り、効果的にメッセージが伝えられるポスターをつくりましょう。ポスターで伝える伝えたい内容を、イラストや写真と文字などを組み合わせてポスターで表現する。98 99鑑賞映像メディア表現若冲と今を結ぶ Nirvanaは大画面に映し出されたコンピュータ・グラフィックス(以下CG)による動画作品です。画面の中で鳥や獣が動き、木々や花々が揺れる様子が穏やかに表現されています。この作品は伊い藤とう若じゃく冲ちゅうの樹じゅ花か鳥ちょう獣じゅう図ず屏びょう風ぶなどから着想を得て制作されています。過去の作品を深く観察し、そのモチーフや描き方、絵画技法などを現代風にアレンジして新しい作品を生み出しているのです。江戸時代の作品が画面の中で動き出す、映像メディアならではのこの作品を鑑賞して、制作者の視点や工夫している点などを話し合ってみましょう。若冲と今を結ぶ映像メディアにより動きや奥行きをイメージして作品を味わう。Nirvana[カラー/6分20秒] 2013teamLab(多国籍のプログラマー/エンジニア/CGアニメーター/絵師などからなるアート集団)「Nirvana」では、「樹花鳥獣図屏風」で平面に描かれた動植物を3次元空間に配置することをコンピュータでシミュレーションしている。若冲が動物の足元に描いた花などは、実際の3次元空間ではかなり手前に配置されていないと、若冲が描いたようには見えないことが分かった。若冲はカメラのレンズで捉えたように描くのではなく、様々な対象を自分のイメージにしたがって独自の空間認識で描いたのである。「Nirvana」ではそういった若冲の描いた世界を違和感なく動画に置き換えるため、樹木の枝を画面の奥に、地面の起伏を画面の手前に配置するなどの工夫を施している。動画の冒頭、鳳ほう凰おうが空から降りてくる場面。作品では鳳凰が羽ばたく様子なども見ることができる。樹花鳥獣図屏風[紙本着色・六曲一双/左隻137.5×366.2cm、右隻137.5×355.6cm]18世紀 静岡県立美術館蔵伊藤若冲[1716~1800]左隻は多彩な鳥を描いた「鳥尽くし」、右隻は様々な獣を配した「獣尽くし」で、左隻は鳳凰、右隻は白象が主役となっている。鳳凰や白象は神聖な動物であり、これは大変めでたい屏風と言える。この屏風では、約1cm四方の小さな正方形を塗り分けて対象を描く「枡ます目め描き」という技法を用いている。コンピュータ・グラフィックスによる3次元配置のシミュレーション。P39・118 伊藤若冲高校生の美術1豊富な題材、充実した美術史、わかりやすい技法資料からなる全154ページの教科書です。高校で美術を学ぶ生徒の入り口となるように、明確な問いかけを用意しました。多くの作家作品に触れながら、学びの手がかりをつかむことができます。P153|これからの私と美術P18-21|人物を描く P45|大きさを意識してレースを編む女ヨハネス・フェルメールP57|生命感や存在感を表すP70-71|ポスターで伝えるP98-99|若冲と今を結ぶ美術とは何かを考える自らの信念を貫いた芸術家の生涯に触れ、美術の意味や自身の価値観について考えさせるオリエンテーションです。新たな視点でものを見る美術と社会のつながりや、自分の身の回りを改めて見つめ直すきっかけを与えるオリエンテーションを設けています。将来と美術とのつながり美術を学ぶことの意義を、実感を持って把握できるように、社会や将来と美術との関わりをイラストレーションで例示しました。絵画全部で15題材を設定。学校の実態に合わせた授業が可能です。彫刻彫造や塑造、抽象彫刻や仏像など全5題材を設定。制作のプロセスを丁寧に解説しています。デザインポスターなどのグラフィックデザインや、プロダクトデザイン、装飾、伝達の内容をバランスよく扱っています。映像メディア表現4題材を掲載。取り組みやすさを重視して、親しみやすい作品や身近な作家を扱い、丁寧な解説を心がけました。鑑賞題材豊富な題材を用意。見方や感じ方、考え方が深まるように構成しています。2 3美術家や美術作品の評価は時代によって異なることがあります。生前、あまり評価されなかった作家の作品が、死後、高い評価を受けることがあります。逆にある時代には高く評価されながら、時代とともに忘れ去られる作品もあります。そう考えると美術作品の価値とは何なのでしょうか。また、美術とは一体何なのでしょうか。美術とは何かアダンの海辺[絹本着色/156×76cm] 1969千葉市美術館寄託田た中なか一いっ村そん[栃木県・1908~77]一村は自身の画風を追い求め、50代で「ゑかきとしての生涯の最後を飾る絵を描くために」奄美大島(鹿児島県)に渡り、染織工として生計を立てつつ、質素な生活を送りながら制作を続けた。生前は無名に近い存在だったが、没後、一村の描き続けた作品は広く知られるところとなり、現在、その豊かな芸術性が高く評価されている。今では、奄美大島に彼の名が付いた美術館が建てられ、全国で作品展が開かれている。P6 田中一村 ゴッホや一村は、世間に認められなくても、妥協なく自分の人生を美術に懸けました。彼らにとって自分の作品の美術的な価値は、他人の評価や時代の風潮に左右されるような相対的なものではなく、心の中にある絶対的なものだったに違いありません。だからこそ、二人とも自分の信じた美術を追い求め続けられたのです。そして、その作品は今や、多くの人々の共感を得ています。困難な人生を送りましたが、ゴッホも一村も美術とともに懸命に生きたのです。そう考えると美術とは、自分の心の中につくりだしていくものなのではないでしょうか。 自分の美術を、この教科書での学びを通して見付けていきましょう。医師ガシェの肖像[油彩・キャンヴァス/67×56cm] 1890フィンセント・ファン・ゴッホ[オランダ・1853~90]ゴッホの作品は、現在では世界中で愛され、なおかつ極めて高く評価されている。例えば「医師ガシェの肖像」は、約124億5000万円で取引されたことがある。ところが、彼が生前に売ることができた作品は1枚きりだったと言われている。ゴッホは自分の作品を売ることでは生活できず、弟であるテオから資金面などで援助を受けていた。P8・34・43・110 フィンセント・ファン・ゴッホP2-3│美術とは何か全国で行われている授業の実態を調査し、取り組みやすい題材から応用的な題材まで、豊富な事例を掲載。表現題材は絵画・彫刻・デザイン・映像メディア表現の分野をバランスよく設定し、生徒作品も数多く掲載しています。また鑑賞題材も充実。実物大での鑑賞や、伝統文化、作家探究など様々な視点から作品に向き合うことができます。動画が見られる!実物大で掲載!高校生の美術1では、以下の作品を実物大で鑑賞できます。P6|「10月の虫と花 スケッチ」 大島理恵P45|「レースを編む女」ヨハネス・フェルメールP47-50|「日傘をさす女」( 部分)クロード・モネ18 19絵画表現人物を描く人物を描く 人物を描くことは、その人を見つめ直すきっかけとなります。描くことで自分はどういう性格でどんな気持ちなのか、また、家族や友人はどんな人で自分にとってどういう存在なのかを改めて考えることになります。表情やポーズ、描く角度、背景や配色などを工夫して、その人の個性や人柄が表れた人物画を描きましょう。自画像[油彩・キャンヴァス/27×22cm] 1960東京富士美術館蔵[東京都]藤ふじ田た 嗣つぐ治はる[日本-フランス・1886~1968]ほおずきのある自画像[油彩・ガッシュ・板/32.2×39.8cm] 1912レオポルト美術館蔵[オーストリア]エゴン・シーレ[オーストリア・1890~1918]自画像[油彩・キャンヴァス/259.1×213.4cm] 1997ニューヨーク近代美術館蔵[アメリカ]チャック・クロース[アメリカ・1940~]自画像[油彩・キャンヴァス/30.5×22cm]1925 一いちのみや宮市三岸節子記念美術館蔵[愛知県]三み岸ぎし節せつ子こ[愛知県・1905~99]自画像[油彩・板/32×22.5cm] 1906東京国立博物館蔵安やす井い 曾そう太た 郎ろう[京都府・1888~1955]フランシス・ベーコン[油彩・銅板/17.8×12.7cm] 1952テート蔵[イギリス]ルシアン・フロイド[イギリス・1922~2011]デイヴィッド・ホックニーポウィス・テラスの寝室で[油彩・板/25×18cm] 1998ヴォルフスブルグ美術館蔵[ドイツ]エリザベス・ペイトン[アメリカ・1965~]P7・13 デイヴィッド・ホックニー観察する目[鉛筆・紙/約15×18cm]2015 生徒作品左:わたし色[アクリルガッシュ・板/45.5×38cm]2014 生徒作品右:自画像[鉛筆・紙/53×53cm] 2014 生徒作品青いターバンの少女(真珠の耳飾りの少女)[油彩・キャンヴァス/44.5×39cm] 1665頃マウリッツハイス美術館蔵[オランダ]ヨハネス・フェルメール[オランダ・1632~75]P43・45・108 ヨハネス・フェルメールおさげ髪の少女[油彩・キャンヴァス/60.1×45.4cm] 1918頃 名古屋市美術館蔵[愛知県]アメデオ・モディリアーニ[イタリア・1884~1920]笑う少年[油彩・板/直径30.5cm] 1625頃マウリッツハイス美術館蔵フランス・ハルス[オランダ・1582-83~1666]レンブラントの自画像レンブラント・ファン・レイン[オランダ・1606~69]レンブラントは浮き沈みの激しい人生の中で、多くの自画像を描きました。左から順に希望に燃えた若き日の自画像、名声を得た絶頂期の自画像、財産を無くした頃の自画像、老いてなお力強く描いた最晩年の自画像です。年齢の違いだけでなく、そのときの心情などを見事に表現しています。P37・108 レンブラント・ファン・レイン左:首当てをつけた自画像[油彩・板/37.9×28.9cm] 1629頃 マウリッツハイス美術館蔵左中:34歳の自画像[油彩・キャンヴァス/102×80cm] 1640 ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵[イギリス]右中:自画像[油彩・板/76×61cm] 1655頃 ウフィツィ美術館蔵[イタリア]右:自画像[油彩・キャンヴァス/65.4×60.2cm] 1669 マウリッツハイス美術館蔵自分を見つめて描こう自分の顔をじっくりと見つめながら、今の気持ちや性格などを考え、自己の内面を自画像で表現しましょう。表情や顔の角度、配色などを工夫して、自分らしさが表れるように描きましょう。顔の部分で表現しよう怒ったときや笑ったときの目や口などの表情には、それぞれ特徴があります。顔の部分で気持ちを表現してみましょう。自己や他者の内面を深く見つめ、表情などを工夫してその人らしさを表現する。P59・112 アメデオ・モディリアーニP11 エゴン・シーレ P9 藤田嗣治