学び!とシネマ

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ダムネーション
2014.11.21
学び!とシネマ <Vol.104>
ダムネーション
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2014 DAMNATION

 ダムを作るのには、いろいろな目的がある。なにしろ、川をせき止めて大きな貯水湖を作るのだから、大規模に自然を破壊する大がかりな建設作業となる。目的は水力発電であったり、災害を防ぐ治水や、灌漑用の水の確保である。いいことも多いが、元からダムの出来る場所に住んでいる人は立ち退きとなる。
 そのようなアメリカでのダム事情を歴史的に振り返り、維持費のかかる効率の悪いダムを壊して、自然を取り戻そうとする動きを追ったドキュメンタリーが公開される。
 「ダムネーション」(ユナイテッドピープル配給)は、1935年9月、当時の大統領フランクリン・ルーズベルトの演説から始まる。「10年前、ここは無人で砂漠だけ。荒々しい川が流れている。世界一のダムの完成を祝福しよう。アメリカ国民の誇り、世界に誇るべき第一級の工学的勝利、偉大なる成果だ」と。

(c)2014 DAMNATION

 ナレーターを、本作をトラヴィス・ラメルと共同で監督したベン・ナイトが務める。国の役人や、環境保護派の人たち、もともとアメリカに住んでいる人たち、絵を描いているアーティストたちが登場する。もちろんダム推進派の人は、聴聞会でダムの重要性を力説したりする。ベンが振り返る。「ダムと水力発電は国策の一部だったが、他の資源開発と同じく、度を越してしまった」と。なにしろアメリカには、1メートル以上のダムは、2013年現在、約7万5千基あるという。
 1881年、電球が発明された頃にナイアガラの滝で水力発電が始まっている。ひとしきりアメリカでのダムの歴史が綴られる。まだ土木技術が未完成の頃に事故が起こる。ダムが決壊して、大量の水が町に溢れ、2,200人が亡くなった事故となる。
 大恐慌がアメリカを襲う。1931年、フーバーダムとグランドクーリーダムの建設が始まる。当初は多くの雇用を生み、国民は称賛を送る。第2次世界大戦用の飛行機や船、爆弾が大量に作られ、水力発電は戦争に貢献する。やがてダムは、アメリカ中の川という川に作られていく。

(c)2014 DAMNATION

 環境破壊は著しい。元から住んでいる人たちは川に遡ってくるサケ漁で暮らしている。法律でダムにサケの通る魚道を作ることになっているが、本来の川ではない。やがて、サケは激減する。多くの環境保護団体が立ち上がる。国もバカではない。効率の悪いダムを、巨額な費用を投じて取り壊しにかかる。やがて、自然が戻ってくる場所もある。
 アメリカと日本では、いささか事情は異なるが本質は同じである。一旦ダム工事に着手していても、ダム不要を唱えるなどのさまざまな反対で、延々と工事が延期になっているという話も聞く。そもそもダムは、治水に、電力に、灌漑用に、役に立つものなのか。自然環境の破壊とを秤にかけて、ダムは必要なものなのか。公共の大きな建築工事である。巨額の利権が発生する。一体、わたしたちはどう考えればいいのだろうか。
 映画は、戻ってきた自然に拍手を送り、壊したいダムの壁に、ヒビ割れの絵やハサミと切り取り線などの絵を描いているアーティストを登場させる。また、自然の戻った川で、環境保護派やアウトドア派は、サケ漁やカヤックを楽しんでいる。
 ダムは、その善し悪しが相半する。少なくとも、映画「ダムネーション」は、ダムの存在、これから建設されようとするダム計画に関して、わたしたちは知らん顔が出来ないことを伝える。映画にも出てくる作家エドワード・アビーはこう言う。「行動なき感傷は魂を殺す」と。日本などは、ダムをめぐっての活発な議論が、もっともっと起こってしかるべき国だと思うのだが。

2014年11月22日(土)より渋谷アップリンクico_linkほかで公開!

『ダムネーション』公式Webサイトico_link

提供:パタゴニア
制作:シュテッカー・エコロジカル、フェルト・ソウルメディア
製作責任者:イヴォン・シュイナード
プロデューサー:マット・シュテッカー、トラヴィス・ラメル
監督:ベン・ナイト、トラヴィス・ラメル
編集:ベン・ナイト
アソシエイトプロデューサー:ベーダ・カルフーン
企画:マット・シュテッカー、イヴォン・シュイナード
配給:ユナイテッドピープル
87分/アメリカ/英語/2014年
後援:WWFジャパン(日本公開に関して)