学び!とシネマ

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みんなのアムステルダム国立美術館へ
2014.12.19
学び!とシネマ <Vol.105>
みんなのアムステルダム国立美術館へ
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2014 Column Film BV

 4年ほど前に、「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」というドキュメンタリー映画が公開された。2004年、オランダのアムステルダム国立美術館の建物の老朽化が進み、所蔵品が増えたこともあって、改築が決まる。オランダの女性監督ウケ・ホーヘンダイクが、この改築をめぐっての顛末を撮ったドキュメンタリーだった。 
 改築は一筋縄では進まない。コンペを勝ち取ったスペインの建築家案に、サイクリスト協会の市民たちが待ったをかける。もともと美術館の中央には自転車がゆったりと通れる道があったのに、改築案では狭くなっている、との理由である。学芸員たちは、名画を修復したり、多くの所蔵品を新たに追加、展示できる絶好のチャンスと張り切っていたのだが。市民意識の高いオランダのことゆえ、いろんな意見が飛び交い設計案が変更となり、多くの時間が費やされる。

(c)2014 Column Film BV

 ドキュメンタリー映画「みんなのアムステルダム国立美術館へ」(ユーロスペース配給)は、前作「ようこそ、アムステルダム国立美術館へ」のいわば続編である。続編は、改修工事そのものが、美術館の関係者だけでなく、いろんな人を巻き込んでの大騒動、後日談を綴っていく。
 創立200年もの歴史を誇り、レンブラントやフェルメールといった世界的に著名な画家の作品を所蔵する、世界でも有数の美術館である。改修するだけでも巨額の政府予算が使われる。館長や学芸員といった美術館の関係者、政府の役人、建築家、市民たちが、それぞれの意見を述べ、主張する。ことに、自転車を愛するアムステルダム市民の意見は強硬である。自転車の通路をめぐって、エントランス設計の修正、見直しを主張する。2008年の春、館長のロナルド・デ・ルーウが辞任する。
 工事は進まないが、学芸員たちは、膨大なコレクションの展示を見直す絶好のチャンスと張り切る。学芸員たちは、収蔵庫の作品を修復しながら新たに展示する作品の選定に励む。同時に、オークションで作品を買い付けたりもする。新設されるアジア館の担当者は、アジア美術が好き。日本から取り寄せた金剛力士像を見る目は緩みっぱなしだ。管理人の美術館に寄せる愛着は尋常ではない。朝晩、美術館を巡回し、壁のヒビの状態まで記憶している。

(c)2014 Column Film BV

 ヴィム・パイベスが新しい館長に決まる。要職に張り切った新館長は、いろいろと経過を見直して、かつて却下されたエントランス案を復活させようとする。またまた、騒動が蒸し返しになる。なんとか工事が再開するが、完成時期が延々と遅れる。予算も限られている。工事は指示通りには進まない。電気の配線工事もひどい出来である。エントランス案は、結局、市民の意見が復活することになる。
 美術館の学芸員、スペインの建築家、フランスの内装担当者、政府の役人、工事関係者などの意見、主張が続出する。何度も何度も会議や打ち合わせが続く。会議では居眠りをする人もいる。みんな、長引く改修工事に疲労困憊。2005年の美術館の壁の取り壊しから、もう7年も経っている。さて、どうなるのか。
 美術館はいったいだれのものなのか。みんな、それぞれの考えがあり主張がある。美術館の改修工事といった大きなプロジェクトの場合、なかなか話がまとまらない。民主主義の善し悪しが端的に現れる。それでも議論を尽くし、なんとか前に進もうとしたり、他人の異なる意見を尊重する姿勢は窺える。
 ウケ・ホーヘンダイク監督のメッセージにこうある。「オランダの誇りについての映画のはずが、シェイクスピアの戯曲と何ら変わらなくなった」と。工事の経過は、それほどの騒動、葛藤、対立などに満ちている。だが、何よりも本作は、ドキュメンタリーの作り手と、取材される側の信頼にあふれている。それでなければ、これだけの記録映像はあり得なかっただろう。いろんな意味で、貴重な記録で物語だと思う。すったもんだのあげく、2013年4月、改修工事を終え、新しい美術館が完成する。再び、レンブラントや、フェルメール、ヤン・ステーン、フランス・ハルスたちの名画に接することができる。オランダに出かける機会があれば、このアムステルダム国立美術館を真っ先に訪れたいと思っている。

2014年12月20日(土)より渋谷・ユーロスペースico_linkほか順次公開!

『みんなのアムステルダム国立美術館へ』公式Webサイトico_link

監督:ウケ・ホーヘンダイク
2014年/オランダ/カラー/97分/オランダ語・英語/DCP
日本語字幕:松岡葉子
原題:The New Rijksmuseum
配給:ユーロスペース