学び!とシネマ

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メイジーの瞳
2014.01.31
学び!とシネマ <Vol.93>
メイジーの瞳
二井 康雄(ふたい・やすお)

(C) 2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.

 2012年、第25回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された「メイジーの知ったこと」は、映画を見たライター仲間でも、評判が高かった。このほど、一般公開が決定、タイトルは「メイジーの瞳」(ギャガ配給)である。私見だが、この年の東京国際映画祭のコンペティション作品15本の中では、昨年の10月に公開された「ハンナ・アーレント」と並んで、この「メイジーの瞳」が、ことに優れた作品だったと思っている。
 6歳の少女が、身勝手な大人たちの都合で、別れた両親の間を行き来し、切ない思いにかられる。原作は、1897年に書かれたヘンリー・ジェイムズの「メイジーの知ったこと」。100年以上も前に、大人の身勝手さを、すぐれた心理描写で活写したヘンリー・ジェイムズの先見性もさることながら、「メイジーの瞳」は、現代のニューヨークを舞台に、両親に翻弄される少女の視点から、大人たちの身勝手を、きめ細かな心理描写で綴っていく。

(C) 2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.

 メイジーの大好きなパパとママは、いつも喧嘩ばかり。ママはロック歌手、パパは美術関係の仕事で、どちらも不在が多い。メイジーは、シッターの女性とも仲良しだ。パパとママが別れる。メイジーは、10日ずつ、ママとパパと暮らすことになる。パパは、シッターの女性と同居し、ママは、バーテンをしている若者と同居する。メイジーは、誰にでも懐き、仲良くするが、ママとパパは多忙、つい、シッターの女性や、新しいパパと過ごす時間が多くなっていく。
 とうとう、いろんな行き違いから、メイジーは、ひとり、取り残されてしまう。決して、泣いたりはしない、けなげなメイジーだが、ついに涙を流す。パパもママも、メイジーが大好きだが、つい仕事を優先し、メイジーのことは二の次となる。そんなメイジーが、久しぶりに迎えにきたママに、大きな決断を下す。さて…。
 決して、大人の身勝手さを描くだけの映画ではない。6歳の少女が、両親や周囲の大人を通して、見て、感じたことを、静謐に描いていく。親と子の関係とは? その愛の在りようとは? だから、人が生きていくこととは?

(C) 2013 MAISIE KNEW, LLC. ALL Rights Reserved.

 メイジーに扮した少女オナタ・アプリールが、抜群に巧い。映画の成功は、この少女を発見したことに尽きる。オナタの父方の祖母が、日本人のクオーターという。すでに子役経験も豊富、うまく育っていけば、大スターになる可能性を秘めている。
 ママ役は、ごひいきの女優ジュリアン・ムーア。ラストで見せるメイジーとのシーンでは、圧巻の演技。身勝手なパパ役は、スティーヴ・クーガン。監督は、スコット・マクギーとデヴィッド・シーゲル。マクギーは、日本映画にも造詣が深く、細部にこだわった、巧い演出を見せる。
 6歳の少女の視点を通して、大人が学ぶべきことは、山のようにある。決して、高価なプレゼントが、親の愛ではない。物質的に裕福な暮らしを用意するのが、子供への愛ではない。メイジーの瞳が、何を見つめ、どこを見ているかを、大人たちが熟視、熟考するべきだろう。

2014年1月31日(金)、TOHOシネマズシャンテico_linkシネマライズico_linkほか全国順次ロードショー!

『メイジーの瞳』公式Webサイトico_link

監督:スコット・マクギー、デヴィッド・シーゲル
原作:ヘンリー・ジェイムズ
製作:ダニエラ・タップリン・ランドバーグ、リーヴァ・マーカー
出演:ジュリアン・ムーア、アレキサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール、ジョアンナ・ヴァンダーハム、スティーヴ・クーガン
2013年/アメリカ/99分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
原題:WHAT MAISIE KNEW
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ギャガ
提供:ギャガ、朝日新聞社