学び!と美術

学び!と美術

研究授業の参観のコツ(3)
2014.03.10
学び!と美術 <Vol.19>
研究授業の参観のコツ(3)
~学習の資源と子供の造形活動~
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 学習は、人や材料などの多種多様な資源の組み合わせによって成り立っています。そして、その環境の中で子どもは学んでいます。図画工作でいえば、資源は、先生や友達、材料や用具、ワークシート、机、材料置き場など様々です(※1)。子どもはそれを取り入れたり、用いたりしながら、造形活動を続けています。

写真1

写真2

写真3

写真4

 授業研究会は、この“学習の資源”の妥当性を見極める実践です。どれが効果的で、何と何の組み合わせが有効なのか、先生の役割、材料の性質、机の並びは適切かなどを確かめます。また、資源の有効性を一番分かっているのは、資源を用いて造形活動をしている当の子ども自身ですから、先生よりも子どもを観察する必要があります(※2)。

 このような見方で授業を見ていると、先生の意図していなかった資源が、子どもの造形活動を決定的に左右していることに気付かされることがあります。本稿では、その具体例として「紙の大きさ」を取り上げてみましょう。

 「紙の大きさ」とはサイズという意味ではありません。子どもの身体と紙の比率という意味です。例えば、四つ切りは、大人には作品展の定番でしょう。しかし、写真1を見れば分かるように、大人にとっての四つ切りが、子どもにとっての八つ切りです。ということは、子供にとっての四つ切りは、大人にとってはその二倍、ほぼ模造紙の半分くらいになります。その紙を前に「さあ、そこにお母さんの顔を書こうね」と言われたら…多くの大人はぞっとするでしょう。身体の比率と学習内容を十分に考慮した上で、紙の大きさを検討してほしいものです。

 紙と体の動きの関係を考えることも重要です。例えば、写真2は「液体粘土を使って体全体を働かせて描く」という内容です。指先で丁寧に描いています。授業のねらいとは違っていますが、賢明な判断だと思います。なぜなら、肘を起点に手を動かせば、画用紙のサイズ以上の動きになるからです。写真3のように、となりの男子はしっかり紙からはみ出してしまっています。この活動で八つ切りは小さすぎるのです。先生は何度も「手を使って大きくかこう!体全体で!」と言いますが、いや、はみ出すでしょう…。ねらいのような造形活動をしたいのであれば、机いっぱいの大きさで、グループで触発し合いながらの実践が妥当だっただろうと思います。

 紙と他の資源をどう配置するかも大切です。ロール画用紙を廊下に長く広げ、ローラーを使って造形活動を行うという授業がありました。絵の具やローラーなどの材料や用具、ロール画用紙、子どもはそれぞれ図のような配置です。紙は、自分の身体よりはるかに大きいサイズです。そのため、子どもはまず“自分の描く場所”を決めます。そして、材料や用具と紙の間を行き来しながら描きます。自然に画用紙手前のヘリが下(地)、画用紙の向こう側が上(天)になります。結果的に子どもの活動はその天地に制限されたものになりました。先生の意図は、写真4のように色や線が自在に重なり合うイメージだったようです。しかし、それには「紙が模造紙大」「子どもたちが四方向からアプローチできる」「絵の具とローラーがすぐ脇にある」という資源の配置が必要です。紙の大きさは、他の資源との関係ではじめて有効性を発揮するのです。

 図画工作は、子どもが自らの判断で動くことの多い教科です。子ども自身が主体的に学習することよって、教科目標を達成しようとする教科です。教育課程上は、ずいぶん「まれ」な存在だと思います。だからこそ、発達や描画材、題材、材料や用具など、様々な資源を掛け合わせるように考え、そこで子どもを活躍させたいものです。「学習を成立させている資源は何で、それはどう配置されているか」「そこで子どもはどのように学んでいるのか」そんな視点で授業参観してはいかがでしょうか(※3)。

 

※1:広くは学校制度や教育課程なども入ってきますが、学習者自身が意識することは少ないので、授業研究会ではあえて学習者が実感できる資源に限定して見ています。
※2:授業研究会では、学習者の立場から授業をとらえることが重要です。
※3:授業者側は「子どもはこう動くだろうなぁ」「じゃあ、ここにこんなものを用意しておこうかなぁ」となります。