学び!とシネマ

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選挙に出たい
2018.11.29
学び!とシネマ <Vol.152>
選挙に出たい
二井 康雄(ふたい・やすお)

 李小牧(リー・シャオムー)は、中国の湖南省の生まれ。新宿の歌舞伎町で、外国人相手に、客引きやガイドをしている。日本に来て、もう30年ほどになる。李は、日本は閉鎖的で、外国人にはとても生活がしにくいと実感している。また、「日本人と外国人が、どのように交流すればいいのか」を、長年、考えている。
 日本の国籍を取得した李は、李小牧(りこまき)の名で、2015年、新宿区区議会の議員選挙に立候補する。何のバックアップもない、いわばドブ板選挙だ。このいきさつを描いたドキュメンタリー映画が「選挙に出たい」(きろくびと配給)だ。
 ふだんから、歌舞伎町が第二の故郷、と思っている李は、歌舞伎町で働くいろんな人が繁栄するよう願っている。
 李は新宿のあちこちで、通りすがりの人たちに呼びかける。きちんと李の話を聞く人は、少ない。それでも、李は、ことに若い人たちに訴える。「私に投票しなくてもいい、誰に投票してもいいから、とにかく投票を」と。民主主義ではない国から来た李は、立候補できる喜びとともに、投票率の低さを嘆く。
 李は、故郷の湖南省に里帰りする。中国人でありながら、日本国籍を取得した李は、国を捨てたことになる。ふだんは、開放的で陽気な性格の李の目が、実家の前では、一瞬、うるむ。
 李の周辺にいる仲間たちは、ホストや、ホステス、飲食店の従業員、同性愛者といった、社会的には少数派で、弱者が多い。李は、彼らの声を代弁し、社会的地位の向上に取り組む、と訴える。
 街頭演説で、すれ違う人が言う。「中国の人じゃ、、支持できない」、「日本から出ていけ」、「中国に帰れ」と。それでも、李はくじけない。むしろ、このような発言のあることが民主主義だと、李は、好意的に受け止める。
 故郷では、誰でもが選挙に出ることはあり得ない。日本では、元外国人ですら、国籍を取得すれば、立候補できる。李は、思う。「選挙に立候補できることが、ある意味、勝利だ」と。
 李の選挙に立候補できた喜びが伝わってくる。李の故郷、国を捨てた哀しみが伝わってくる。
 2015年4月26日が投票日だ。投票率わずか38.3%。選挙の結果が出る。定数38にたいして、52名の候補者がいる。李は45位だった。最低で当選した人の票数は1440票。李は、1018票。
 奇をてらうことなく、李に密着した監督は、ケイヒという、まだ若い女性だ。テレビのドキュメンタリーを数多く撮っていて、豊富なキャリアがある。
 一般の人もそうだが、これは、選挙権のある若い人たちに、ぜひとも見てほしい映画だ。

2018年12月1日(土)より、ポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開

『選挙に出たい』公式Webサイト

監督・撮影・編集:邢菲(ケイヒ)
プロデューサー:海天(ハイ・テン)
カメラ協力:井手口大騎ダグラス
カラーコレクション:デビッド・ヒメネス
映像技術:西村康弘
整音:富永憲一
音楽:アレッサンドロ・アポローニ
宣伝美術:鯰江光二
2016年/中国・日本/78分
配給:きろくびと
協力:テムジン