学び!とICT

学び!とICT

指導者用デジタル教科書(教材)で日々の授業を改善しよう
2019.12.26
学び!とICT <Vol.01>
指導者用デジタル教科書(教材)で日々の授業を改善しよう
大阪教育大学・大学院連合教職実践研究科・准教授 寺嶋浩介

1.進む環境整備と学校現場

 学校において,ICT機器の普及が進んでいる。費用面において,自治体間の格差が見られるが,ハードウェアの整備については,すでに児童・生徒用コンピュータの導入に関心があたっている。(編集部注:2019年12月、文科省が「GIGAスクール構想の実現」を公表)
 一方,学校現場に目を移してみると,教師によるICT活用さえ日常化していない例も見受けられる。忙しくて準備する時間がない,とか「今までにできなかったことをICTで実現しよう」と考え,なかなか日常的なICT活用が進まないといったところがその理由となっている。
 いくら「主体的・対話的で深い学び」の充実といっても,多くの場合,教師が授業の進捗についてはコントロールしていることが多い。このような中で,児童・生徒の活動の充実,それにしかもICTを活用した学習場面をいきなりイメージすることは難しい。
 まずは,教師が普段とっている授業スタイルに,無理なくICTを導入することから始めたい。今までICTがなくても行っていた授業をどのように改善できるか,という視点からICTを取り入れたい。

2.指導者用デジタル教科書(教材)の活用

 そこで効果的に機能すると考えられるもののひとつが,指導者用デジタル教科書(教材)である。実際に,導入されている学校では,多くの教師が活用しており,強力なコンテンツのひとつとなっている。2018年度の調査によると(文部科学省 2019),小学校では56.6%の学校で,中学校では61.4%の学校でなんらかの形では導入されている。ICT活用に長けていなくても,かんたんに利用できる。もし,なにかの教科のデジタル教科書・教材が導入されている場合は,授業で使うことを考えよう。
 指導者用デジタル教科書(教材)は簡便に利用できる。確かに,Web上にも教材となりうるデジタルコンテンツはたくさんある。こうした教材では,何を使うか考えるのに時間がかかるが,指導者用デジタル教科書(教材)の場合,基本的に教科書紙面と同じものが用意されているので,準備に手間取ることが圧倒的に少ないというのがメリットだ。

3.効果的な活用の工夫

 活用としては,まずは単純に提示をすることから始めてみたい。普段,教師として説明をしているつもりでも,児童・生徒には伝わっていない,あるいは伝わりきっていない授業場面があまりに多い。教科書のどのページやどの図を見るか,そのように些細に思われることが全員に伝わっておらず,それが積み重なることで,彼らの集中力をそいだり,授業目標の到達に至らないケースをよく目にする。まず,児童・生徒が活用しているそのものを一斉提示し,誰が見ても理解できるような指示や説明をしたい。そうすることで,実際の説明時間も短縮でき,児童・生徒の活動により多くの時間をあてることができる。
 その次に,授業で児童・生徒の興味や関心を高めるための活用を考えたい。教科にもよるが,指導者用デジタル教科書(教材)で取り上げられている部分のひとつひとつの要素に注目をしてみよう。例えば,グラフや写真,図表については拡大できるものが多い。大きく見せて,よりわかりやすくなる授業を意識しよう。
 中には,紙の教科書で扱うことができない,動画等の素材が含まれるものもある。文字だけではイメージ化をはかりにくいものについて,こうした教材で補うことも考えたい。通常は,教師が探して提示するものであるが,指導者用デジタル教科書(教材)ではこうした素材が教科書と連携しているのでより充実した授業の展開が考えられる。

文部科学省(2019)学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1287351.htm

寺嶋 浩介(てらしま こうすけ)
大阪教育大学・大学院連合教職実践研究科・准教授。
専門分野は教師教育学(特に教育工学,メディア教育)。主な著書に『初等中等教育におけるICT活用』(ミネルヴァ書房,共編著)など。