高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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真鶴町・石の彫刻祭
2019.09.19
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.066 特別号 ワークショップのある芸術祭>
真鶴町・石の彫刻祭

事前に石切り場で選んだ小松石をハートの形に彫刻する冨長。 「真鶴町・石の彫刻祭」は神奈川県の真鶴半島で産出される小松石を素材としたアート作品の公開制作やワークショップ等を通して、石とアートの魅力を融合し、日本における石の文化を世界に発信する芸術祭である。2019年から2020年にかけて、国内外で活動する注目アーティストたちが小松石を素材に彫刻を中心とした多彩な表現を展開する。
 2019年秋には滞在による公開制作をはじめトークショーやワークショップなどを随時実施予定となっており、期間中に作品の完成から設置までが行われるとのこと。来る2020年の夏には作品公開イベントを開催する予定となっている。実は真鶴には1963年にも世界各国から彫刻家が集結した「世界近代彫刻シンポジウム」が開催された歴史がある。国内外12名の彫刻家が小松石を用いて公開制作を行い、1964年の東京オリンピック開催時には新宿御苑で作品を展示し、大きな反響を呼んだという。今回の「真鶴町・石の彫刻祭」はその歴史を踏まえて開催されているものなのである。
 参加アーティストの一人である冨長敦也に話を聞いた。
 冨長はハートの形に彫刻した石を、その土地で出会う人々と共に磨き、みんなの想いでその石を輝かせるという「Love Stone Project」を展開している彫刻家だ。これは東日本大震災の被災地を訪れた経験から生まれた参加型プロジェクトである。大人から子どもまであらゆる人が参加可能で、人が腰掛けられるほどの大きさのものから、女性が抱えられるくらいのサイズのものまで、多彩な大きさの石を用いて、様々な地域で行われてきた。日本全国をはじめ、ニューヨーク、イタリア、メキシコ、ベトナム、カンボジアなど、これまで200ヶ所以上で実施され、およそ2万人以上が参加しているという。
 石を磨く作業は80番くらいの粗い耐水ペーパーから始まり、冨長のプランに従い、徐々に番手を上げていく。世の人々は一般的に、石は非常に硬く、人の手では研磨することなどできないという先入観を持っている。しかし、一旦磨きはじめると、粉が吹き始め自分にも石を磨くことができるのだ、と気付く。自分が向き合っている、その作品に変化を与えられることを実感すると、楽しくなるのだ。人はその作業に没頭していく。
 冨長は言う。「川の上流の石はごつごつした形をしていますよね。でも、それが川を流れて下流に行くにしたがって、角が取れて丸い石になっていく。その変化は自然の行為そのものです。このLove Stone Projectでは人々がその川の流れになり、自然がするのと同じように、石を磨き上げていくのです。」
 磨く作業は手触りに変化を与え、その変化は石との対話となる。石との対話は自分との対話にもつながり、石を磨く行為と共に人は自然の一部になっていく。そして、その石を中心に参加者がひとつになっていく。冨長は「子どもたちには触れることを、人々には交わることを伝えたい」と語っている。
 そんな「Love Stone Project」の真鶴版は9月28日から毎週末に11月いっぱいまで開催される。詳細は以下のリンクを参照のこと。

(編集部)