学び!とPBL

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生徒たちがつくる国際会議
2019.12.27
学び!とPBL <Vol.21>
生徒たちがつくる国際会議
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.国際会議でプロジェクトの方向付けを

 地方創生イノベーションスクール2030のプロジェクトは、様々な困難を抱えていました。このプロジェクトは、地域の課題を高校生自身が見つけそれに取り組む実践部分と、そこから生まれてくる様々なエビデンスを分析する研究部分に分かれていました。「実践」の解釈のしかたが極めて多様で全体を貫くものは何なのかが見えにくい、研究もまた同様で、こうしたプロジェクト型学習の研究母体が日本の場合、きわめて層が薄いというのも課題となっていました。このプロジェクトの最終ゴールを「国際会議」にしようと考えたのは、成果の共有が一番の目的でありましたが、こうした課題を踏まえてプロジェクト全体の方向付けを行うという意味も含まれていました。もちろん、プロジェクトの目的であるグローバルコンピテンシーを伸長させることも当然重要な柱でした。
 実は早い段階から国際会議を開催するイメージはあったのですが、ボード会議に初めて国際会議で話題にしたのは、プロジェクトがスタートした翌年の8月で、開催しようと考えていた年のちょうど1年前のことでした。通常、国際会議となれば――規模や内容にもよりますが――、1年前にはほぼ枠組みが決まっていて、あとは内容を詰めていくだけ、というのが当たり前です。「東北復幸祭〈環WA〉in PARIS」でも2年半かかりました。それに対し、この国際会議は1年前に開催を議論し始め、開催を決断したのが10ヶ月前、実行委員会が動き出したのは8ヶ月前の12月のことでした。

2.プロジェクト学習としての国際会議

図1 他の高校生国際会議を視察する しかも課題は山積みです。東北スクールの経験があるとは言え、今回はプロジェクトへの参加校が全国に散っており、どのように実行委員会を結成したらいいのかもわかりません。最も難しいのは、生徒のアイディアで国際会議を組み立てるという点です。国際会議に参加した経験のある生徒は、数地域の数名のみで、生徒の多くは国際会議のイメージすらほとんどありません。その生徒たちで、仕事を分担する→アイディアを出す→全体に諮る→決定する→準備をする→実行する、のプロセスをどうつくるか、見当もつきませんでした。さらに日本はホスト国を務めますが、国際会議は海外の生徒も立派な構成員です。日本の会議に海外の生徒が参加するのではなく、海外の生徒たちも同じように国際会議をつくるメンバーとしての参加を求めるべきということになります。
図2 ESDの国際会議主催者に学ぶ つまり、国際会議の取り組みはこれまでの実践の集大成などではなく、これをつくり上げること自体が生徒たちのプロジェクト学習となったのです。会議をつくり上げる上で生徒たちは無数の困難と直面することになる、それをどのようなチームで、どのような大人たちに協力を求めて壁を乗り越えていくのか、ということなのです。生徒が参加する国際会議は数多くあります。その多くは、あらかじめ大人がテーマや枠組み、スケジュールを決め、あらかじめ生徒は英語によるプレゼンテーションを練習して披露し、いざディスカッションとなると凍り付いてしまう、というのが日本の平均的な高校生の姿です。語学力がすべてを決めてしまうということがいいことなのかどうなのかも議論となります。実際、いくつかの生徒による国際会議を見てきましたが、多くの会議の進行役を預かっている高校生は帰国子女で、彼らの多くは日本を外側からは見られますが、内側からは見ることができません。
図3 実際の国際会議の会場を視察する 国際会議前年の12月に初めて、実行委員の生徒たちが顔合わせをし、大人主導ではなく生徒中心の会議をつくっていくことが確認されました。福島市、ふたば未来学園高校、和歌山県、福井県、広島市などの中・高校生が顔を揃え、ぎこちない感じで自己紹介しました。しかしこの場ですら、自分たちの意見が通らないのではないか、と不満がもれ聞こえていました。今思えば、高校生主体で行うと取り決めたものの、大人の関わり方についてはほとんど議論されておらず、そのために地域によって高校生に丸投げになってしまったり、高校生を使って大人の意見を代弁することになったりと、認識のズレは歴然としており、いつの間にか実行委員長になってしまった私は、その運営の難しさを痛感することになります。

3.生徒による共同宣言を!

 国際会議のコンセプトは三つでした。一つは文化交流。異国の生徒同士が自由に交流し、友達になることが目的です。形式的な国際会議ではここまで実現することができないと考え、まさに生徒自らが企画する私たちの国際会議ならではの特徴ということができます。二つ目が実践交流。海外も含めた各地域の生徒たちが、それぞれの学校や地域でこれまで取り組んできた実践を、ブース形式で披露します。三つ目は教育のイノベーション。異国の生徒同士が議論しあい、問題解決を目的とした21世紀の教育のあり方を考えるという、とてもハードルの高い内容です。これらを各地域の高校生や先生方が役割分担し、8ヶ月で準備を進めていくことになります。
図4 国際会議の具体例を話してもらう しかしこれだけでは、国際会議の「顔」になるような、集大成となるものが足りないことにすぐに気がつきます。この会議が1回限りで終わってしまうのならまだしも、次の会議に結びつける「何か」がほしいと考え、その何かを「生徒共同宣言」にしてはどうかということになりました。「共同宣言」の類いは事務局があらかじめ準備し、当日満場の拍手で採択されるものですが、これを生徒たちでつくる、しかも海外の生徒も含めてつくってしまおう、ということになります。ハードルはどんどん高くなっていき、現在の大人たちで本当にこれを指導しきれるのか、不安だらけとなりました。
 国際会議の名前が決まりました。「生徒国際イノベーションフォーラム2017」です。